第4話 プレイボーイ ニックの正体

「そうよ! 竜殺しの剣を取りに来たのよ!」

 

 デリルは思い出したように言う。「なのにマリーったら……」

 

「あっ、そうだわ! 伝説の武器は売ってなくても商人なら何か分かるかも!」


 マリーが誤魔化ごまかすように大声を出す。どうやらメリーの前で、ど天然のうっかり者と思われたくないらしい。

 

「だから何だって言うのよ。商人の知り合いなんていないわよ!」


 デリルは手詰まりといった感じで言う。

 

「ふふふ。デリル、あんたは知らないでしょうけどニックは豪商ごうしょうの家系なのよ」


 マリーはどや顔で言う。まるで自分の手柄のようである。

 

「え? そうなの?」


 デリルは意外そうに言う。あのプレイボーイが豪商の家系とは……。


「ニックはまだ修行中の身だけど、お父様なら何か知ってるかも」


 マリーはデリルがやって来てから初めて有益な情報を出してきた。


「じゃ、早速ニックに会いに行きましょ」


「そうね、アルのためだもの。メリー、サリー、お留守番よろしくね」


 マリーは二人に言う。


「えー。お留守番? そもそもニックは私の彼氏なんですけどぉ……」


 メリーが不満そうに言う。


「あら、嫌なの? ネロくんと一緒にお留守番」


 マリーが言うとメリーとサリーが、

 

「「いってらっしゃい!」」


 と、食い気味に声を揃えて言った。

 

 

「マリー、お待たせ。……えっ? デリルもいるの?」


 ニックはマリーと一緒にいるデリルを見て驚いた。マリーに呼び出されたので、今夜はヘヴィな夜になりそうだと思っていたが、さらにヘヴィなヘヴィな夜になりそうだとニックは思った。

 

「そうなのよ。ごめんね、今日はニックにお願いがあって来たの」


 デリルはニックにわらをもすがるような表情を見せる。

 

「なんだよ、まさか3Pしようなんて言わないだろうな」


 この豊満巨女二人に対して男が自分一人ではさすがに荷が重い。せめてこないだの小僧、なんて言ったっけ? ミロだったかネロだったか、あいつでもいれば少しは負担が軽減されるんだが……。


「馬鹿! 何てこと言ってるのよ!」


 デリルは怒ったようにニックに言う。「3Pは後でいいのよ」


「お父様に聞きたい事があるの。話を通してくれない?」


 マリーがニックに言う。

 

「なんだ、そんな事か。分かったよ、それじゃ、今から行こう」


 ニックはあっさりと二人の要請に応じる。

 

「あら、やけに素直じゃない。何をたくらんでるの?」


 マリーがかんぐると、


「さっさと用事を済ませればその分長く遊べるだろ?」


 ニックはそう言ってマリーのお尻をぺろんと撫でた。デリルはその様子を見て、相変わらずプレイボーイだわと思っていた。




「ニック、あなたこのお屋敷に住んでるの?」


 デリルはマリーの邸宅とは比べ物にならない大豪邸だいごうていを前に立ちすくんだ。

 

「いや、今はアパートで一人暮らしさ。実家じゃ女を連れ込めないだろ?」


 ニックは悪戯っぽくウインクしてデリルに言った。これほど大きな豪邸なら何人連れ込んでも大丈夫そうだが……。

 普段、丸太小屋で暮らしているデリルはマリーの屋敷もかなり立派だと思っていたが、ニックの生家せいかに比べると全く比較にならない。上には上がいるものだ。

 

 ニックは二人の間に入って腰に手を回す。そして、そのままエスコートするようにして屋敷に入っていった。

 

「ニックお坊ちゃま。突然、どうされました?」


 執事が慌てて玄関の三人に駆け寄ってくる。

 

「お父様、いるかい?」


 ニックがたずねる。

 

「まだお戻りではありませんが、もうすぐ戻られます」


 執事がそう言うとニックは、


「二人とも夕食は食べたの?」


 と、マリーたちにく。そういえばもうすっかり暗くなっている。

 

「いえ、まだよ」


「じゃあ、うちで食べなよ。なぁ、何か食べさせてよ」


 ニックが執事に言うと、かしこまりましたと頭を下げて奥に引っ込んで行った。

 

「凄いわね、ニック。本物の執事なんて初めて見たわ」


 デリルは素直に驚いていた。「あっ、ネロくんたちもご飯まだじゃない?」

 

「大丈夫よ、うちの娘たちは自分で作って食べるから」


 マリーがそう答えたのでデリルも安心した。あの二人が作る料理はハイカロリーに違いないが、一食くらいならネロも大丈夫だろう。

 

 ほどなくして次々にテーブルの上に料理が運ばれてきた。王都の富豪はこんな物を食べているのかと目を丸くするデリル。片田舎の森で丸太小屋暮らししているデリルには運ばれてくる料理が斬新過ざんしんすぎてあまり食欲が刺激されなかった。

 

「さすがマリーとデリルだね。気持ち良いくらいモリモリ食べるじゃん」


 ニックは美味しそうに食べ尽くす二人を見て微笑んだ。いくら食欲が沸かなくてもデリルの食べっぷりは常人とは比較にならなかった。「遠慮はいらないよ、いくらでも食べて良いからね」

 

 デリルはその言葉を聞いて、うっかりニックに惚れそうになってしまった。

 

 王都は海も近く、魚介類ぎょかいるいも非常に美味しい。デリルは普段、ほとんど魚を食べる機会は無い。そんなデリルが感動するほど新鮮で美味しい魚料理であった。


「あぁ、美味しかった」


 デリルは満足そうに言った。「これ以上食べたら太っちゃうかな?」

 

「大丈夫よ、お魚だからヘルシーだわ」


 マリーはそう言ってニックに尋ねる。「デザートはまだかしら?」

 

「あ、ああ、持って来させるよ……」


 ニックはあまりの食べっぷりに圧倒されてしまった。




 デザートもたっぷり食べた頃、ようやく待っていたニックの父親が帰宅した。

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