第6話 落下!
巨大な獅子の
「よし、それじゃいったん村に戻ろう」
エリザはしゃがんだ姿勢からぐっと力を込めて立ち上がろうとした。しかし、ケイブライオンとの死闘は思った以上にエリザにダメージを与えていた。
背負った獅子の頭部の重さにバランスを崩したエリザはよろよろと後ろにひっくり返りそうになる。
「エリザ、大丈夫?」
アルが後ろから支えようと手を伸ばす。「う、うわぁ!」
思った以上に勢いよくひっくり返ったエリザを支えきれず、アルは押し潰されそうになって思わず後ろに下がる。
ずしんっと尻もちをついたエリザが照れくさそうに振り返る。
「へへっ、思ったより重かったよ、この
そこにアルの姿は無かった。「おい、アル。どこに行った?」
エリザは振り返るが獅子頭が邪魔をしてよく見えない。ぐるりと身体を反転させて見ると、そこは中央部分の大穴になっていた。
「ま、まさか、ここに落ちたんじゃ……」
エリザはとりあえず獅子頭を置いて、そっと大穴を覗き込む。しかし漆黒の闇が広がり、何の音も聞こえてこない。「アルーーーーッ!!」
エリザの絶叫は空しくこだました。
エリザの心配したとおり、アルは大穴に落ちていた。フロア中央の大穴は地の底まで続くかと思われた。いつまで落下しても着地しない。アルは死を覚悟していた。滞空時間は約二十秒ほどだったがアルは無限に長く感じていた。途中、ぐっと上に引っ張られたように錯覚したが、それからすぐに地面に叩きつけられた。
身体がバラバラになるような強い衝撃を感じ、アルはそのまま意識を失った。
エリザは真っ青になってアルが落ちた場所まで行こうと、らせん状になった足場を
「アル……、無事でいてくれ!」
エリザは祈るような気持ちで下りていく。時々、ケイブライオンと戦った場所ような広いフロア状の部分があるものの、アルの姿はどこにも無かった。
どのくらい
「うっ……、うぅ……。いててて……」
アルは辺りを見回した。どうなったんだ? 身体をしこたま打ち付けて気絶したまでは覚えている。あの高さから落ちたら、いててて……ですむはずがない。
うつ伏せのまま身体を動かせず、地面を手で触ってみる。ゴムのような柔らかいクッション性のある地面だ。しかし、だからといって助かるとは思えない。
ぼんやりとした意識の中で、両手を地面についてゆっくりと身体を起こしてみる。バラバラになるほど全身が痛いが、どうやら本当にバラバラにはなっていないようである。
「ああ、痛かった……」
アルはふと腰周りに違和感を感じて手で触ってみる。なんだかおかしな物が両脇に当たっている。「そうか。ケイブライオンの足だ」
アルが両脇に抱えていたケイブライオンの後ろ足の部分である。肩に乗せていた前足の爪は皮の胴鎧の肩にざっくりと食い込んでいた。どうやら落ちた時、ケイブライオンの皮を背負っていたため、それが空気抵抗となって落下速度を緩めたらしい。現実世界で言うところのパラシュートのような役割を果たしたようである。
おまけに着地点が柔らかいゴムのような材質だったため、一命を取り止めたという訳だ。アルはゆっくりと立ち上がり、肩に食い込んだケイブライオンの前足を引き剥がす。この爪が胴鎧ではなく、首筋に刺さっていたらと思うとゾッとする。アルはケイブライオンの毛皮を床に脱ぎ捨てた。
「あっ、そうだ。エリザに無事を知らせなきゃ」
アルは大穴に向かって大声を出した。「エリザーーーーーッ!!」
「!? なんか聞こえたぞ?」
エリザはすでにかなりの距離を下ってきていた。その距離が長ければ長いほどアルの生存は可能性が低いと思いつつ、それでも全力で駆け下りていた。
そんなエリザにアルの声が聞こえてきたのだ。「アルーーーーッ!!」
エリザは次のフロア状の広い部分に着地し、上から叫んだ。
「エリザ! 僕は無事だよーっ!」
間違いなくアルの声である。エリザはへたへたとその場にしゃがみ込んだ。
「良かった……。生きていてくれたか」
エリザは思わず涙をこぼした。「この野郎! 何やってんだ、ドジ!」
「下が柔らかくて助かったみたい!」
アルが叫ぶ。
「なんだ、下は柔らかいのか。おい! 今から石落すから落ちてきたら教えろ!」
エリザはアルにそう言って手ごろな石を拾う。「いくぞ! 離れてろよ!」
「いいよーっ!!」
アルの声を聞いてエリザは石を落とした。
「一、二、三……」
エリザは数を数えながらアルの合図を待つ。
「あっ、今、石が落ちてきたよ!」
下からアルの声がエリザに届いた。
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