第7話 臥竜が目覚めて大暴れ
「……五か。よし、それならなんとかなるな」
エリザはブツブツ言いながら身体を
「え?! 嘘でしょ?」
アルは穴からさらにちょっと離れた。
「よし! 行くぞ! それっ! 一、二、三……」
エリザは飛び降りると同時に数を数える。
「エリザ……」
アルは心配そうに大穴を見ている。
「五ぉ!!」
大穴から大きな肉塊が勢いよく自由落下してきた。エリザは着地点が柔らかいと聞いて背中から受身を取るようにして落ちてきた。
「エリザ!」
アルは嬉しそうにエリザに駆け寄る。
「アル……。無事で良かった」
エリザは起き上がってガバッとアルを抱きしめた。
ぐらり……。
地面が急に揺れた気がした。ふと見るとエリザの着地した部分にケイブライオンの爪が突き刺さっている。アルが毛皮を投げ捨てた場所にエリザが着地し、エリザの全体重がケイブライオンの前足に
ゴゴゴゴゴ……。
地鳴りのような音が響き渡り、天井から細かい石がパラパラと落ちてくる。
「おい、この爪の刺さってる部分。赤くなってないか?」
エリザはアルを抱きしめたまま、うねる地面を見てそう言った。
「そ、そうだね。なんか血みたい……だ」
アルがそう言った瞬間、地面が斜めになった。ゴロゴロと転がり落ちる抱き合った二人。しこたま強く地面に叩きつけられ二人は離れる。
「何が起きたんだ?」
エリザは起き上がって目の前を注意深く眺めた。
グオォォォォォッ!!
ゆっくりと二人の目の前に
「ま、まさか、
アルがその場にへたり込んで言う。
「で、でけぇ! こりゃ間違い無いな、臥竜だ!」
エリザは目を覚ました臥竜を見て、アルを
ギヤァァァァアッ!!
臥竜はけたたましい叫び声を上げる。その叫び声は山中に響き渡った。魔物や動物たちは血相を変えて山から逃げていく。その絶叫は
◇
「なっ、何事じゃ!」
麓の村の長が屋敷から飛び出してくる。
「村長! 臥竜様が……臥竜様が目覚めたようです!!」
村の中は蜂の巣を突付いたような騒ぎである。
何百年もの間、眠り続けていた臥竜が、数十年前のワイバーン騒動の時、隕石が落下しても目覚めなかったあの臥竜が目を覚ましたのだ。
「村長、宿屋に確認したところ、今朝二名の旅の者が……」
村人が村長に報告する。
「まさかとは思うがその二人が……」
村長は山の方を
◇
「この野郎、何て声出しやがる!」
エリザは臥竜の叫び声に思わず耳をふさいだ。「アル、とにかく逃げるぞ!」
臥竜は寝起きでご機嫌斜めらしく、身体中をのたうたせてそこら中に頭を叩きつけて暴れ回っている。
「ひぃっ! エリザ、これ……」
アルが自分たちが落とされた地面に転がる無数の白骨を指差す。魔物や動物の骨もあるが、明らかに人骨と思われる骨も含まれている。
ギィィィヤァァア!!
臥竜は発作でも起こしたように暴れ、岩盤に身体を打ちつける。
「寝起きでぐずってるみたいだな……。あたしたちに気付く前に逃げよう」
エリザはそう言って逃げ道を探す。
ギャアァ……?
突然、臥竜が大人しくなった。
「ん? なんだ、急に静かになったな……」
エリザは臥竜の方を確かめるように見た。臥竜はアルをじっと見ていた。
「あ……。あぁ……」
アルはすくんで身動きが取れない。臥竜は首を傾げて、ゆっくりと顔をアルに近づけてきた。
「くそう! 見付かったか!」
エリザはアルを庇って前に立ち、臥竜に
ガィン!!
眉間に振り下ろされた戦斧はあっさりと弾かれた。まるで鉄の塊を叩いたような感触だ。まさに歯が立たないという奴だ。
ギィヤァァァアッ!!
エリザに向かって臥竜が腕を振り下ろす。鋭い爪がエリザに襲い掛かる。
「くっ! 危ねぇ……」
寸前で身をかわしたが
エリザはトコトコ走るアルを後ろから小脇に抱え、
「ぐあぁぁぁっ!!」
エリザは握り潰されそうになって絶叫する。
「エリザ!!」
アルは洞穴の中から叫ぶ。
「アル……、に……、逃げろ……」
あとほんの少し力が加わったらぐちゃりと握り潰されてしまうところだった。そうなる前に、臥竜はエリザの身体を岩盤に叩きつけるように放り投げた。
グワッシャンッ!
「ぐっ、久々にヤバいな……」
岩盤に叩きつけられたエリザは何とか意識を保つ。しかし、どうやらここまでのようである。臥竜はゆっくりとエリザに顔を近づけてきた……。
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