第2話 臥竜山に挑戦
昨晩遅くに
宿屋の窓から外を覗くと、そびえ立つ
「あれが臥竜山かぁ」
アルは不気味な雰囲気にぶるっと身体を震わせた。
「ん? なんだアル。もう起きたのか?」
エリザがぐっと伸びをしながら窓際のアルに声をかける。
「あ、おはよう、エリザ。ぐっすり寝てたね」
アルは窓際からベッドの方へ近づきながら言う。「ご飯食べに行こうか」
「そうだな。親子丼でも食うか」
エリザはいやらしい顔をして笑う。
「へぇ、この村ではそんな食べ物が名物なの?」
アルはすっ呆けて受け流した。
「本当にあったんだ」
アルはガツガツと親子丼を食べているエリザを呆れた目で見ていた。
「ん? 結構旨いんだぞ。お前、食べないのか?」
エリザは豆を発酵させた調味料を使ったスープを美味しそうにすする。大根を発酵させた黄色い食べ物も口に放り込む。
「ぼ、僕は王都の出だから朝はシリアルの方が良いんだ」
アルはシリアルにミルクをかけて食べ、野菜たっぷりのサラダと茹で卵を食べた。なんだか茹で卵は変な匂いがしたので文句を言ったが、温泉卵ですからと言われて押し切られてしまった。
「へっ、お高く止まりやがって」
エリザはふんっと鼻を鳴らす。「おーい、おかわり!」
「まだ食べるの? そんなんだから……」
アルはそう言いかけて口をつぐむ。
「あん? お前の大好きなムチムチバディを維持する為に頑張ってるんだよ」
エリザは挑発するように爆乳をぶるんぶるんと揺らしてみせる。
「もう! こんなところでやめてよ、恥ずかしい」
アルはキョロキョロと辺りを見回す。温泉客のハゲオヤジが隣の席からエリザの胸元を凝視していたが、アルと目が合って愛想笑いを浮かべた。
「がはは、良いじゃねぇか、減るもんじゃなし」
エリザは全然気にする様子もなく、おかわりの親子丼に箸をつける。
「ところで、今日はこれからどうするの?」
アルは場の空気を換えようと真面目な顔で尋ねる。
「ん? そうだな、せっかく来たんだし登ってみるか」
エリザはハイキングのような調子で言った。
「やだよ、臥竜が眠る霊峰なんだろ? もし起きたらどうすんの?」
アルは不安そうにエリザに言う。
「何百年も眠っているんだぞ。そう簡単に目を覚ます訳ないじゃないか」
エリザは怖がるアルを笑い飛ばす。「腹ごしらえがすんだら行ってみよう」
「僕はもう食べ終わったよ。食後はホットミルクで」
アルは店員に食後の飲み物を注文する。
「あ、お姉さん、ついでにもう一杯、同じのちょうだい」
エリザは空のどんぶりを店員に渡しながら言う。アルはエリザが美味しそうに食べている姿は大好きだった。本当に幸せそうで見ていて癒される。
アルがホットミルクを飲みながら見ていると、三杯目の親子丼を平らげ、別腹別腹と言いながらスイーツを次々と注文してむしゃむしゃと食べ尽くした。
本当に別の胃袋があるんじゃないかと疑うほどの食べっぷりである。
「ふー、健康のため、腹八分目にしておこう」
エリザは意味不明な事を言いながら腹をポンポンと叩いた。
道具屋で色々と必要な物を買い揃え、アルとエリザは臥竜山に足を踏み入れた。最初のうちは魔物もほとんどおらず、平和な村の延長のようなのどかな光景が続いていた。不安そうにしていたアルも徐々に緊張がほぐれ、振り返って景色を楽しむ余裕が出てきた。麓の村の大きな温泉を見て驚いた。
「すごいなぁ、あんな温泉を村人たちが掘り起こしたのかぁ……」
アルは先人の苦労を思って感心していた。
「あの温泉が出るまで村は貧乏だったんだけどな」
エリザは思い出すように語る。「デリルのお陰で今は豊かだ」
「え? どういう事?」
アルは驚いて聞き返す。デリルというのは、エリザと共に魔王と戦った魔女の事である。アルも一度、デリルとは会った事がある。エリザとはタイプは違うが、豊満巨熟女である事は共通している。
「ん? ああ、例のワイバーンの群れと戦った時にデリルの落とした隕石の衝撃でクレーターが出来て、そこから温泉が沸いたんだよ」
エリザは当たり前のように言うが、隕石を落すってもの凄い魔法である。さすがは魔王討伐メンバー、桁違いの強さである。
「そんな凄い人なのに、どうしてあんなところで隠居みたいな生活を?」
アルはエリザに尋ねる。そんな大魔道士なら王都でいくらでも職があるはずだ。しかしデリルは片田舎の町の傍にある森の中に丸太小屋を建ててひっそりと暮らしているのだ。
「なんでだろうな? あたしもこないだ偶然会っただけだから知らないんだよ」
エリザは両手を広げておどけてみせる。「ま、昔の事さ」
「もしかしてエリザにもそんな武勇伝があるの?」
「んー、そんな大した事はしてないぞ。そりゃ昔は今よりほんのちょっと痩せてたからモテたのはモテたけどな。一日の最高記録は六人ってとこだ」
いったい何の話をしているのだろう? アルは突っ込むのも馬鹿らしくなってそのまま聞き流した。
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