第4話⁂最終話⁂


 美知子の両親は兼六園の近くに小さな旅館『御宿 兼六』を細々と経営している。

ある日の事だ。

 母から思いも寄らない連絡を受けた。

「美知子がお世話になった工房の奥さん多美子さんが、交通事故で亡くなったのよ」


「エエエ——————ッ!」

 いくら、しこりが残っていると言えども散々お世話になった身。こうして葬儀に参列した。


 そして…徹の熱意にほだされ工房に復帰、やがて…徹からプロポーズを受けて竜司を連れ再婚した。


 前夫には本当に申し訳ないと思っているが、死ぬほど惚れた男にプロポーズされて断われる筈がない。

 こうして、離婚して今度こそ人間国宝徹の正真正銘の妻になった美知子。

 十五歳の息子竜司の親権は夫が定職に就いていなかったので、美知子に親権が渡った。


 そこで竜司は二歳年下の真理と出会い、そして禁断の愛が芽生え、やがて恵が生れた。


 🔴🔷🟠

 それではこの謎に満ちた事件を、紐解いて行こう。


 書道教室のお友達四人の女子会で起こった事件。

 そこには過去の恐ろしい怨念が現在に、恨みとなって表れていた。



 それでは、先ずは全ての原点であるクスノキ団地の人間関係を紐解かなければいけない。

 まず、恵が幼い頃にクスノキ団地に行くと、よく〈手取フィッシュランド〉に連れ出してくれたサトさんだが、サトさんは一体どういう人物なのか?


 実は、竜司の母で美知子の実家の旅館『御宿 兼六』に勤務していた女中頭だった。そして…蘭子はサトさんの年の離れた妹で、一度結婚して弥生と言う娘を設けていた看護師さんだった。2人は仲の良い姉妹で弥生と3人で仲良く暮らしていた。


 ある日、そこに竜司が転がり込んで来た。


 新妻真理との密会がバレて、工房を破門になった竜司は、最初は竜司の母美知子の実家に身を置くつもりだったが、バブル崩壊で廃業の憂き目に遭っていたため、美知子の計らいで、サトさんの住んでいるクスノキ団地で就職先が見つかるまでお世話になる事になった。


 当然両親や、サトさんの監視が厳しくて二人は会えないのだが、引き裂かれれば余計に愛の炎が……。



 こうして五年の月日が流れた

 竜司はサトさんと蘭子、更に連れ子の弥生と4人暮らしをして幸せに暮らしていた。そして…既に竜司と蘭子の間には男の子翼が授かっていたが、この男翼こそ〈オ・シャト-〉の近くの森で会った謎の男で、恵がどこかで見た事が有るような……?

 それは…父竜司の若い頃に生き写しだったからだ。

 

 それでは恵が幼い頃に感じていた……何かしら……感じる……視線の正体。

 その視線の正体はズバリ!父竜司。

 

 だから…恵は幼い頃、父と一~二度しか会っていない。それは、真理の夫太郎に、会った事を話されたら困るので、竜司は陰からこっそり見ていたのだ。だから恵は若い頃の父の顔が思い出せなかった。

 

 それでは恵が幼い頃にクスノキ団地で、よく母の真理と蘭子が美知子の事を話していたが、あの会話は一体何だったのか?


「よくも……奪ったな!…あの女…女ぎつね!」


 その理由は真理にすれば母多美子が若くて有能な美知子に、父徹を奪われ嫉妬に狂って苦しんでいる姿を、いやという程見ていたので美知子を恨んでいた。


 蘭子の方は竜司との結婚を切に願っていたが、弥生というこぶ付きが気にいらないらしく大反対。だから二人は美知子を恨んでいた。


 


 ★夫太郎の章


 二〇〇〇年以降巨大ショッピングモ-ルの台頭で、百貨店はことごとく窮地に追いやられていた。それは金兼百貨店も決して例外ではない、次々に店舗が閉店して、倒産に追い込まれていた。


 ◆▽◆

 それでは太郎の真実に迫って行こう。

 太郎は何故好きな愛人がいたのに急遽結婚を決めたかと言うと、実は…荒田徹加賀友禅個展で真理を一目見た瞬間に、今まで一度も味わった事が無い、それこそ雷で打たれたような衝撃が走って、真理の事が片時も忘れられなくなってしまった。


 太郎の両親は、三十五歳の息子がやっと結婚する気持ちになって大喜び。


 こうして結婚したのだが、夫の太郎は恵が五歳ぐらいから、自分の娘なのか疑問を抱くようになっていた。

 それでは何故疑問に感じたのか?

 それは…当然真理の夫なので真理の実家にも顔を出す事が有る。その時に義母美知子の連れ子で、興信所で調べて知っていた真理の元カレ若手加賀友禅作家竜司に、恵が余りにもよく似ている事に不信感を抱いていた。


 そこで不審に思いDNA鑑定を依頼したら、やはり恵は100%に近い確率で太郎と血縁関係でない事が分かった。そして…真里と竜司は、今尚太郎の目を盗んで会っていた。


「お前どういうつもりだ。俺に他人の男の娘を俺の子だと言って結婚するなんて恐ろしい女だ。それから……まだあの男と付き合っているらしいじゃないか、許せん。出て行け————ッ!」


「…ウウウウッ(´;ω;`)ウッ…ごめんなさい……出て行きます!」

 

 実は……真理はしおらしく涙を流してはいるが、破綻寸前の金兼百貨店の内情を、痛いほど分かっていた。だから……その言葉を待っていた。

 

「キサマ……まさか!あの男と結婚するつもりなのか? 絶対にダメだ!クウウ(´;ω;`)ウッ…行かないでくれ!俺を……俺を……捨てないでくれ———ッ!」



 二〇一〇年に金兼百貨店経営破綻。


 実は…結婚して五年後くらいから真理は竜司に頻繫に連絡して、太郎との離婚をほのめかしていた。それは…丁度その頃金兼百貨店は経営危機に陥っていた。



 竜司との愛は復活。竜司は蘭子に別れる意思を伝えていた。余りの意思の強さに涙を吞んで別れる決意をした蘭子。


 真理はやっと別れる決意をしてくれた蘭子の住むクスノキ団地に、恵を連れて子供達の養育費支払いにやって来ていた。その時に、真理と蘭子は竜司を巡って女の戦いを繰り広げ般若顔になっていた。


 竜司にすれば蘭子との間に翼を授かっていたが、弥生は自分の子ではない。更には…母美智子が大反対している。

 どちらを選ぶかは、一目瞭然。自分の娘恵と愛する真里、更には人間国宝を父に持つ真理と結婚したら行く行くは人間国宝も夢じゃない。


 こうして散々尽くしてくれた蘭子と二人の子供弥生と翼を捨てた。

 太郎と蘭子の恨みはやがて………。


 ◆▽◆

 二〇二一年十一月某日。

 太郎は金兼百貨店は破綻したが、いくらかの預貯金もあったので悲惨な現状は免れていたが、それでも…もう直ぐ六十歳で独り身の惨めな人生を送っている。

 当然真理と竜司が結婚した事は、風の便りに聞いているが、今尚許せない気持ちで一杯だ。


 そんな時に、最近体調が悪いので病院で診てもらった。

 すると…胃がんが見つかった。と言っても初期だったので案ずることはない。


 十五日ほど入院したのだが、総合病院の消化器内科に入院した時に、偶然にも蘭子も消化器内科の看護師だった。担当は違ったが、まず蘭子の方が太郎に近づいた。


 当然真里の夫だったので顔は知っていた。

 こうして太郎と蘭子の復讐は始まった。


 弥生を書道教室に送り込み着々と準備を進めた。

 

 そして…恵に近付き、母蘭子を苦しめ家族を捨てた積年の恨みを晴らそうと、淡々とその時期を狙っていた。だから…弥生が社長のお嬢さんだなんて真っ赤なウソ。


 太郎が主犯で全ての指示を出しているのだが、高級フレンチ〈オ・シャトー〉での女子会の前夜の事だ。

 

 書道教室の日だったので近くにある公園で、まさかこんな夜に誰も居ないと思って弥生が車の中で恵殺害計画を太郎に聞き出していると、彼と一緒に車で書道教室にやって来た麗香が、寄りによって彼と車の中でラブシ―ンをする為に、人通りの少ない公園に車を止めた。


 だが、あいにく彼がタバコに火を付けたので、タバコの臭いが大嫌いだった麗香は慌てて車から降りて夜風に当たりながら、見慣れた車が有ると思い弥生の車に近付いた。

(アッ!やっぱり弥生だ。何故こんな所に弥生の車が?)


 そこで……何とも…あんな優しい弥生が、想像も出来ないような会話をしているので、耳を澄まして聞き入っていた。すると…彼が「オイ!」と呼んだ。


 一方の弥生はこんな場所で男の声がしたので「エエエ————ッ!こんな場所で誰が?」と思い、辺りを見渡すと、少し離れた場所に車が、するとその時、小走りに走り去る麗香の姿が……。


「あら~?麗香じゃないの~教室に一緒に行こうよ」


「………」

 完全に無視された。という事は全て聞かれたという事。


 弥生にして見れば、こんな物騒な場所に誰も車を止めないと思って、夢中になって話していた。


 そこで……慌てて太郎にその話をした。

「バカ野郎!全く不注意もいいとこだ!……もう仕方ない!それじゃ恵の髪の毛かハンカチでもいい。何か恵の物を、指紋は付けるな!」



 ◆▽◆

 高級フレンチ〈オ・シャトー〉の周りは警察車両でごった返している。


 警察官が車の中を必死になって捜索している。

 すると…恵の髪の毛とハンカチが………。


「オイ!このハンカチの指紋照合と髪の毛のDNA鑑定を急げ!」


 夕暮れの森、ひまわりが咲き乱れる〈オ・シャトー〉はセピア色に染まっていた。


 それは過去を懐かしむセピア色ではなく、事件を象徴するように、セピアから血塗られた赤褐色の、ざくろの身が塾すと皮が裂けてむき出しになり、鮮烈かつグロテスクに見えて不吉だと言われている「鬼子母神」が食したとされるざくろの狂った赤に変わり、やがて…恐ろしいまでの漆黒の闇がどこまでも広がって行った。


 ※鬼子母神:500人の子供を育てたが、沢山の子供を育てる為に常に他人の子を奪って食べた。見かねたお釈迦様が「人肉の味がするざくろを食べなさい」と諭した。だから「ざくろは人肉の味がする」として縁起が悪いものと忌み嫌われるものになったが、決してそればかりではない。悪いものもあれは良いものもある。


終わり

 






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セピア色の夏 あのね! @tsukc55384

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