第14話 入城
「お、おい! なんだあれ!」
「ひいい! この世の終わりだ!」
王都上空を悠然と飛ぶ、城と無数の天使たち。
それを見た王都市民は混乱し、パニックになる。兵士たちがあれは安全だと必死に事態を収束させようとするが焼け石に水、効果はほぼなかった。
そして混乱は王城にも広がっていた。
「陛下! お耳に入れたいことが……」
「分かっておる。あの城のことであろう」
ガルマニア王国の王、バハラドは窓からこちらにゆっくりと飛んでくる城を見ながら、配下に返事をする。
「どうやら私の認識は甘かったみたいだな。まさかあれほどの力を持っているとは」
「……致し方ありません。どうして相手があれほどの力を持っていると想像できましょうか」
配下はそう擁護するが、王の心は晴れない。
ダイルなる人物と会談し、良い関係を築けるよう努力する。やることは変わってないが、あの軍勢を見たあとだとかかるプレッシャーが段違いだ。
もし機嫌を損ねれば王都が、いや王国が滅びかねない。それだけはなんとしても避けなければいかなかった。
「それと陛下。ダイル殿があの城を中庭につけたいと言っているそうですが、いかがいたしますか」
「承諾する他あるまい。あのような城、他に置いておけるスペースなどないのだから」
かしこまりました。と返事をして配下は王の自室を去る。
一人残された王は、何をするでもなくジッと白銀の軍勢が来るのを眺めるのだった。
◇ ◇ ◇
「……この光景、なんだか久しぶりな気がするな」
『天空の神殿』改め、『天空城』の上から地上を眺めながら俺は呟く。
そこから見える光景は白銀城と同じだった。ほんのすこし前まで乗っていたというのに、少し離れただけで久しぶりな気がするから不思議だ。
きっと俺は自分が思っているよりも、白銀城のことを想っているのだろう。早く修理して再び大空を自由に飛ばしてやりたい。
「ダイル様。中庭への着陸許可を取ってまいりました」
「そうか。ご苦労」
地上に行っていたミカエルが戻ってきてそう報告してくる。
こいつらはプレイヤーキャラと違ってかなり長時間飛行することができる、羨ましい限りだ。俺も
「見てくださいダイル様! 下で多くの人たちが私たちを見てますよ!」
下を見ながらきゃっきゃとはしゃいでいるのはシアだ。
こういう場に子どもを連れてくるのはどうかと思ったけど、彼女の頭脳はやはり必要。四人の天使もいるし子どもが一人いてもツッコまれないんじゃないかということで同行してもらった。シア自身が王都に行きたがったというのもあるけどな。
「そうだシア。これを渡しておこう」
「へ? なんですか?」
俺が取り出したのは光る天使の輪っかだった。それをシアの頭の上に乗っけると、ふわふわと頭の上に浮遊する。まるで本当の天使みたいだ。
「わわ! なんですかこれ!」
「天使になりきれるアイテムだ。人間の子どもを連れてると知られるのはあまりよくないと思ってな。つけるのが嫌なら外しても構わないぞ」
「い、いえ! とおっても気に入りました! ありがたくちょうだいしますぅ!」
シアは天使の輪っかをギュッと胸に抱え死守する。
まあ気に入ってもらえたならいいか。
「えへへ、ダイル様からのプレゼントだ……」
「ん? いま呼んだか?」
「な、なんでもありませんっ!」
いったいどうしたんだろう、やっぱり緊張しているんだろうか……と思っていると、天空城がぐわんと揺れて、止まる。どうやら目的地についたようだ。
天使たちが慌ただしく動き始める。
「錨を下ろせ! 着陸準備だ!」
ミカエルの号令のもと、俺の召喚した天使たちが働く。
彼女が指揮すると天使たちの能力があがるみたいだ。さすが四大天使の中でもリーダー格だな。
「ダイル様。こちらへ」
「ああ」
ガブリエルと共に天空城の端まで行く。すると地上まで続く階段が出現する。
こんなギミックがあったのか。凝った作りだな。
「まずは我々が」
そう言って四人の天使たちは光り輝きながら地上に舞い降りる。
なんか天使の羽みたいなのが舞ってて無駄に神々しい。俺はなんか恥ずかしくなってくるけど、下で見ている人間たちは「おお……」と感動している。
あいつらの演出はどうやら聞いたみたいだな。
「さて、私たちも行くとするか」
「はい!」
シアを連れ添って、階段を降りていく。
なるべく威厳があるように、ゆっくりと、時間をかけて。
相手は国だ。見栄えを何より大事にする。なめられたら終わり、まともな取引をしてもらえなくなるだろう。
だから打てる手は全て打った。
戦力が多く見えるよう毎日
これなら向こうも無下に出来ないだろう。
「お待ちしておりましたダイル様」
「む?」
下まで降りきると、一人の騎士が俺を出迎えた。
黄金の鎧を身にまとった、ハンサムな青年だ。見るからにできるって感じがする。
「私は王国騎士第一師団長、エクサウル・リムブントと申します。此度はダイル様の案内役を仰せつかりました」
「そうか。よろしく頼むリムブント殿」
「はっ、ではこちらへ。陛下がお待ちです」
ハンサム騎士に連れられ、王城の中に足を踏み入れようとした瞬間、行く手を塞ぐように中年の男が飛び出してきた。
高そうな服を着ているところから察するに、この国の貴族だろうか? しかし客人の行く手をいきなり塞ぐとはマナーがなってないな。
「ボルトムント伯……どういうおつもりでしょうか?」
どうやら騎士殿も同じ考えみたいで、目の前の腹が出た男をにらみつけている。しかしその男はそんなこと意に介さず、まっすぐ俺のことを見て話しかけてくる。
「お初にお目にかかるダイル殿! 私はドレア・ボルトムントと申します!」
「……これは丁寧にどうも。私になにか御用でしょうか」
気に入らない男だが、一応相手は友好関係を結ぼうとしている国の貴族。最低限の礼は払って接する。
するとドレアという男は俺が丁寧に返したことで好感触を得たと思ってみたいでぐいぐいと話を詰めてくる。
「いやあ私は初めて天使を見ましたが、素晴らしいものですね! 実は私は色々な商売に手を出しておりまして、ダイル様とはよきパートナーになれると思うのですよ! どうでしょうか、ぜひお話だけでも! もちろんそちらの見目麗しい女性がたも一緒に……!」
ドレアはミカエルとガブリエル、ウリエルを見ながら鼻の下を伸ばす。
こいつ……天使に手を出す気なのか? 性欲が高すぎるだろ。
「……申し訳ありませんが私はまず陛下と話さねばなりません。いつ終わるかも分からぬゆえ、確約はできません」
「そこをなんとか! 綺麗所を用意しておりますので! あ、何か欲しい物がありましたら……」
と、そこまで言ったところで騎士のエクサウルが剣を抜く。
うわ、凄い殺気だ。こりゃブチギレてるな。
「お帰り願おうボルトムント伯。この御方は陛下の客人、それ以上は陛下に対する侮辱と取らせてもらう」
「ぐ……っ、平民上がりの田舎騎士が……」
ドレアはそう悪態をつくと、逃げるように去っていく。
なんだったんだあいつは。
「申し訳ありません、あの者は王国でも問題の多い貴族でして……」
「いえ、構いませんよ。どこにでもあの手の輩はいるものです」
「寛大なお心遣い、痛み入ります。改めてこちらへ、陛下がお待ちです」
こうして俺は多少のトラブルはあったものの、無事城内に足を踏み入れるのだった。
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