第13話 降臨
――――王都訪問、当日。
王都ベルカードの正門前にはたくさんの兵士たちが集まっていた。
彼らは今日王都を訪問する人物を迎え入れる役割を担っている。その人物と会うことを王は楽しみにしていて、最大限の礼を尽くして接するようにと彼らは命じられていた。
しかし命じられているとはいえ……心からそういう気持ちにはなれなかった。
「そのダイルって奴は田舎村を治めているだけなんだろ? なんでこんな大勢で迎えるんだ?」
「なんでも魔法使いらしいぞ? その腕を王国のものにしたいとか」
「ただの魔法使いにこんな待遇するか? よその王族を迎え入れる規模だろこれは」
「俺は天使を従えてるって聞いたぞ。ま、ガセネタだろうけどな!」
ぶつぶつと文句を言う兵士たち。
国王がダイルの情報をあまり漏らさないようにしたせいで、兵士はこれから来るその人物をなめてしまっていた。
当然国王も考えなしに情報を隠したのではなく、貴族たちに余計な情報を与えないための策だったのだが、王はそういった行為がよく裏目に出る人物であった。
もし、このまま普通にダイルが来れば彼の側近がその態度に怒り、トラブルとなっていただろう。
しかし幸か不幸か彼らは普通には来なかった。
最初にその異変に気がついたのはボーっと空を眺めていた一人の兵士だった。
「……ん? なんだあれ」
彼が見たのは空に現れた黒い点。
最初は鳥かと思ったが、それにしてはやけに大きい。
「ドラゴン……じゃ、ないよな?」
その黒い点はどんどん大きくなってきて、次第に他の兵士たちも気がついてくる。
兵士たちは口々にあれがなにかの議論をする。
中々議論の結論が出ない中、一人の兵士が注目を集める発言をする。
「あれ、生き物じゃなくないか? もっとなにか違う……建物みたいな感じがする」
確かにと兵士たちは得心する。
近づいてくるその影は、角張った形をしていた。生き物であればもっと流線的なフォルムをしているはずだ。
「あ、じゃあ『天空の神殿』じゃないか? あれに似た形をしていたと思うんだけど」
「馬鹿、あれは一回も王都に近づいたことないだろ」
など話している内にその影はとうとう王都のすぐ側までやってくる。
「なんだあれ……城か?」
それの正体は宙に浮かぶ居城であった。
大きさはそれほどではないが、立派で美しい城であった。その城の下半分はなにやら苔むした石で出来ている。
兵士たちは知る由もないが、それは『天空の神殿』を改造して作られた空を飛ぶ小型の城であった。
当然白銀城をモチーフとして改造されており、白銀城から一部兵装を積み込んでいる。そのため戦闘も可能だ。その気であれば王都を数十分で火の海に変えることも出来る。
「おい。あの城の周りになんか飛んでねえか?」
「嘘だろ? まさかあれって天使か……!?」
城の周りには百体以上の天使が飛び、城を守っていた。
大小様々な天使の姿を見て、兵士たちは恐れを抱く。遠目に見ているだけで生物として格が違うのを彼らは本能で感じ取ったのだ。
「……おい、あれはなんだ?」
兵士の一人が空を指差す。
するとその方向から一筋の光が兵士たちのもとに飛んできていた。
「あれは……女神?」
その光の正体は美しい女性だった。
金色の髪をなびかせながら兵士たちの前に着陸した女性。その背中には六枚の翼が生えていた。
「……この場の責任者はどなたですか?」
女性はよく響く声で兵士たちに話しかけてくる。
一瞬の静寂ののち、一人の兵士が前に進み出る。
「私がこの場を取り仕切っています。貴方は……あの城はなんでしょうか」
そう尋ねると、女性は大きな胸を張りながら堂々と答える。
「私は四大天使が一人にして、偉大なる神の
ミカエルの言葉に兵士たちはざわめく。
今まで眉唾だと思っていた噂は尾ひれがついているどころか、情報が引かれたものであった。
兵士たちに緊張が走る。もし失礼な真似をしてしまえば、命だけじゃ済まないかもしれない。これは王国の命運を分ける謁見だということを全員が理解した。
「それと申し訳ないのですが、王城の中庭を空けておいていただきたい」
「え?」
「あの城では門を潜ることは不可能。直接中庭の方に着陸させていただきたい」
「いや、しかし……」
正門で受け入れるよう彼は命令を受けていた。それを変えることはかなり難題であった。
しかしミカエルの人間を見る目を見て、彼はそれを受け入れる決心をした。それほどまでに彼女の目は恐ろしいものだった。
「……か、かしこまりました。すぐそのように手配いたします」
「ご協力感謝いたします。それでは私は一旦戻らせていただきます」
ミカエルの体がふっと浮き、次の瞬間には高速で城の方に飛んでいく。
兵士たちはその光景を口を開けて眺めていることしかできなかった。
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