第10話 王国の問題
四大天使を配下にすることに成功した俺は、ミカエルに案内され再び神殿中央の台座に案内された。
「この台座にまだ何かあるのか?」
「はい。この神殿は現在自動周回モードになっておりますが……」
ミカエルが台座を触ると、空中に色々な文字や数字が書かれた画面が映る。
これは白銀城を操作する時の
「この天空の神殿は自分で操作……運転できるのだな」
「はい、その通りでございます。我々を従えた貴方様はこの神殿の
「くく……それはいい」
思わぬ収穫に俺はほくそ笑む。
まさか『四大天使降臨!』のクリア報酬にこんな物があったなんてな。
天空の神殿は白銀城よりずっと小さいけど、その分取り回しがいい。空を飛ぶのにかかるコストもずっと少ないだろう。きっと役に立つぞ。
「今操作方法をお教えします。まずはここを……」
「不要だ。だいたい理解した」
俺はミカエルの説明を聞かずに
ここで状態確認ができて……ここで前進できる。ふむ、やっぱり白銀城とほとんど同じ操作方法だ。これなら目を瞑っていても操作できるぞ。
「まさか初見で神殿の操作ができるとは……感服いたしました。私はいくら練習しても上手くできなかったのに……」
「ミカちゃんは不器用ですからねえ」
後ろでミカエルとガブリエルが楽しげに話している。
こいつらは元々ゲームのキャラのはずなのに、どうして自我があるんだろうか。そこら辺のことも今後分かればいいんだが。
「今私はジマリ村という村を拠点に活動している。ひとまず神殿でそこまで向かう。着いたあとはそうだな……お前たちの扱いはシアに考えてもらうとしよう」
「かしこまりました。ではそのシアなる人物が私たちの上司ということで構いませんね?」
「……ああ、それでいい。必要な情報は全部シアが把握しているからな。ひとまずは彼女の指示に従って動いてくれ」
俺は心のなかでシアに謝り、村に出発するのだった。
◇ ◇ ◇
ガルマニア王国中央部、シアナ平野。
そこの中心部に王都ベルカードは存在する。
周囲は分厚い城壁で囲まれており、過去何度も他国からの侵攻を食い止めている。
王国誕生からずっと存在し続ける王都ベルカード。
その繁栄は約束されたものだと言われていたが……その栄光は過去のものとなりつつあった。
「陛下。南西部での戦争の件ですが……またたくさんの兵が犠牲になったと報告がありました」
「そうか……」
配下の報せを受け、ガルマニア王国国王バハラド・ガルマニウスはため息をつく。
ここ数年、彼はいい報告を聞いた覚えがなかった。
上がってくるのはやれ凶作だの侵略されただの病気が流行っているだの暗い報告ばかり。バハラドはよくこの国は滅びないなと後ろ向きな感心すらしていた。
順調に国力が落ちつつあるガルマニア王国だが、これはバハラドが歴代の王と比べて圧倒的に劣っているから……ではない。
飢饉や病気は運によるものだし、もっとも大きい要因は外的要因、隣国によるものだ。
最近力を増しているポラキア帝国のせいで王国の力は削がれ続けていた。
しょっちゅう小競り合いをしかけられ、村を焼かれ、色々と理由をつけては金を要求してくる帝国に王国は手を焼いていた。
昔であれば戦争を仕掛けていただろうが、今の帝国は王国に匹敵する力をつけつつある。総力戦にでもなったら王国が滅びかねない。よしんば勝てたとしても疲弊したところを他の国に狙われる恐れがある。
慎重派なバハラド王は何も決断することができず、ただただ現状維持をするしかなかった。
しかしその姿勢も弱腰外交だと民に叩かれる。もう王は限界の一歩手前まで来ていた。
しかしそんな彼が唯一すがれるものがあった。それは、
「ダイル殿、いったいどのような御仁なのだろうか」
兵士から報告が上がった謎の人物『ダイル』。
余所の土地から流れ着いたその人物はなんと天使を使役し、大規模の魔法を操るという。
その手腕で辺境の村を一瞬にして大きな街へと変えたという。
当然それをすぐに信じることはできず、王は信頼できる部下を村へ送り調べさせた。
しかし結果は白。兵士の証言は全て真実であった。
「なあジルグッドよ。ダイル殿は味方になってくれると思うか?」
「……どうでしょうか。村人の証言によると理性的で慈愛に満ちた人物とのことでしたが、こればかりは会ってみないことには……」
配下のジルグッドは困ったように答える。
あまりにも不確定な情報が多い以上、そう答える他なかった。
「しかし味方になってくれたら助かることは間違いないでしょう。その者はジマリ村の食糧問題を数日で解決したといいます。その力を王都でも発揮していただければ……」
「ああ、そうだな。飢餓は深刻な問題となっている。それを解決できるやもしれぬ」
不作で食料が足りないのはジマリ村だけの話ではない。
他の村はもちろん、王都でも飢餓で死ぬものが出始めていた。
食べ物が足りなければ暴動も起きる。それで死傷者が出て更に暴動は激化する。
まさに負のスパイラル。王はこれを止める手を喉から手が出るほど欲していた。
「しかしそのような者がくるとなると、先に接触しようとする貴族も現れそうですね……」
「ああ、すでに画策しているものもいるだろうな。今は国の一大事、我々で潰し合っている暇などないというのに……」
バハラド王は頭を抱える。
この国の貴族は腐りきっている。それが王が出した結論だった。
食糧難に陥れば食糧を過剰に確保し、戦が起きれば兵を出し渋る。貴族たちに国を良くしようという意識はなく、ただなるべく消耗せずに甘い蜜を吸いたいという気持ちしかなかった。
国力を落とすために送られた帝国のスパイなんじゃないかとすら最近は思っていた。
「とにかく、今回の件は失敗できぬ。貴族連中に好き勝手やられぬようにしてくれ」
「かしこまりました。どこまで出来るかは分かりませんが最善は尽くします」
王の腹心ジルグッドはそう宣言し部屋を出ていく。
一人残されたバハラドは「ふう……」と大きく息を吐く。
こうしてダイルの知らぬ間に、事態は大きく動き出すのだった。
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