第6話 接戦

 ぶつかる二つのエネルギーは相殺され、辺りに衝撃波をまき散らす。

 近くにいた俺はそれをもろに食らい、内臓が揺れる感触を味わった。


「ぐ……っ、これがHPが削られる感触か……!」


 この世界に来てからロクなダメージを負っていなかったので、新鮮な感覚だ。

 だけどこんなのもう味わなくて大丈夫だな、気持ちのいいものじゃない。


「驚きました。この攻撃でも倒せないなんて」


 煙が舞う中、声だけが聞こえる。

 この声はガブリエルだ。イメージ通りあいつは水を扱うみたいだな。


 情報を整理しよう。

 最初に戦ったミカエルの属性はおそらく光。

 高速の剣技を得意とするインファイターだ。遠距離攻撃も持ってるかもしれないが、それほど得意には見えなかった。


 ガブリエルは水。

 あまり接近戦が得意なようには見えなかった。遠くから攻撃する魔法使いタイプだろう。


 ラファエルの属性はまだ見てないけど、快風と名乗っていたから風だろう。

 あいつもミカエルと同じくゴリゴリのインファイターだろう。だけどこいつの方が頑丈タフそうだ。ちょっとやそっとの搦め手じゃ効果はないだろうな。


 そして最後のウリエルの属性は火。

 まだ火を撃っているところしか見てないけど、こいつは接近戦もできそうな気配を感じた。遠近両方対応のバランスファイターってところか? もしそうなら俺と似たタイプだな。


 今動けないミカエルを除いて、一番先に狙った方がいい奴は……あいつだな。


「スキル〈気配探知〉――――」


 スキルを発動し、四体の天使の位置を把握する。

 このスキルじゃ場所は分かってもその気配が誰のものかは分からない。

 だけど俺の狙いは俺から距離を取っているはず、一番遠くに控えている奴が俺の狙いだ!


「極位魔法、天裂く雷轟ヘブンズ・サンダー!!」


 超大型の雷が生まれ、一直線に獲物に食らいつく。すると砂煙の中「きゃあああ!!」と甲高い悲鳴が響く。

 平時であれば防御手段を取ることもできただろう。だが今は視界が悪い状況、その状況では反応が遅れても仕方ない。


「まず一体」


 煙が晴れ、俺の視界に倒れたガブリエルの姿が入る。

 水属性には回復や強化バフの能力を持つ者が多い。まず倒すならそういうタイプだ。


「てめえ! よくもガブリエルを!」

「お前だけは……燃やし尽くす!」


 残った二人、ラファエルとウリエルが一気に襲いかかってくる。

 さすがに一気に来られるとキツい。こっちも人数・・を増やさないとな。


「極位魔法、完全なる幻影ドッペルゲンガー


 魔法が発動すると、俺の影がにゅうっと起き上がり、実体化する。

 この影は一定時間自動で動き戦闘してくれる。能力値は俺と同じなので、しばらくはもってくれるはずだ。


「お前はデカいのを頼む」


 ドッペルゲンガーはコクリと頷くとラファエルに突っ込んでいく。

 ラファエルはあからさまな脳筋タイプ。搦め手は使ってこないだろう。それなら自分で考えることが苦手なドッペルゲンガーでもある程度は持ちこたえてくれるはずだ。


「その間にお前を倒す」

「……なめたことを言う」


 ミカエルは周囲にいくつもの炎球を生み出し、放ってくる。

 威力は高そうだが、動きは単調。俺は回避しながら接近する。


「接近戦ならあたしに勝てると思っているのか? なめるなよ」


 ミカエルは手に炎の剣を生み出し、斬りかかってくる。

 読み通り炎による攻撃だけじゃなくて接近戦にも自信があるみたいだ。


「死ね!」


 炎の剣が俺の首めがけて振るわれる。

 俺はその一撃を剣で弾いてみせた。


「な……!?」

「剣に自信があるのは自分だけだと思ったか?」


 俺にとって魔法はあくまで補助サブでしかない。

 本領は接近戦の剣術だ。


 今まで何人ものプレイヤーと切り結んできたけど、一対一の斬り合いで負けたことは一回もない。


「はああああああっ!!」


 白銀の刀身が舞い、銀閃が煌めく。

 ウリエルは炎の盾を生み出し防御を試みるが、その盾は数度斬られただけで壊れてしまう。

 あとはこちらのターンだ。肩から入り、腕に体、腰に足と何度も斬りつける。


「いや……」


 痛みに耐えかね、ウリエルは強気な態度から一変ししおらしい顔をする。

 普通の人なら動揺の一つでもするのかもしれないが、俺は違う。迷いなくとどめの一撃を振り下ろす――――つもりだった。


「……っ!?」


 視界が揺れ、体に鋭い痛みが走る。

 攻撃を受けたと理解したのは、血を流しながら地面に倒れてからだった。


「ずいぶん好き勝手やってくれたな」


 そういいながら俺に近づいてくるのは、光の熾天使ミカエルだった。

 その手には光の魔力が煌めいている。どうやらこいつに攻撃されたみたいだ。


「拘束が……解けていたか……」

「惜しかったな。ウリエルまで倒せば勝機はあったかもしれないが、それももう叶わない」


 視界の端でラファエルを確認すると、俺のドッペルゲンガーをちょうど倒したところだった。そしてラファエルは倒れたガブリエルに近づくと、手から光を放ち回復させてしまう。

 くそ、あいつも回復技持ちだったのか……!


「これで四対一、もう勝機はないぞ」

「くく、油断していると足元をすくわれるぞ?」

「減らず口を……塵も残さず消してくれよう」


 四体の天使は一気に畳み掛けてくる。

 光と炎の波状攻撃で手足を焼き、ラファエルの拳でボディを打つ。そしておまけに超高速の水の弾丸が俺の体を貫いた。


「が……あ……」


 一瞬にして俺の体はボロボロになる。

 もはやどこが痛いのかさえ分からない状態だ。


「さすが熾天使どうぞくといったところでしょうか。まだ原型をとどめているとはたいした耐久力です。しかし……」


 ミカエルの体が強く光り始める。

 どうやら決めるつもりみたいだ。


「これで終わりです。死になさい」


 ゆっくりと俺の方に近づいてくる。

 はあ……いつ以来だろうか。こんなに追い詰められたのは。


 少なくとも仲間がいなくなってからはないな。たまに城に侵入しようとするやつらを迎撃するぐらいしかなかったからな。

 まさかまたとっておきを使う時が来るなんて思わなかった。


「……! まだ立てるのですか」

「ああ、貴様らにいいものを見せてやろうと思ってな」

「いいもの?」

「そうだ。貴様らは神が迎えに来るのを待っていたんだろう? だったら見せてやるよ神の姿を」

「なにを馬鹿なことを……。神を呼ぶ手段でも持っているというのか?」


 ミカエルは呆れたように言う。

 他の天使たちも似たような反応をしている。


 くく、だったら見せてやろう。

 俺のとっておきを。


「スキル発動、〈職業置換ジョブスイッチ〉」

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