第4話 天空の神殿

 空に浮かぶ謎の遺跡『天空の神殿』。それは確かに存在していた。


 石は苔むしていてかなり昔から存在しているように感じる。だけどこの遺跡がロパ地方で確認されだしたのは、ここ半年以内のことらしい。


「どこかから流れ着いたのか、それとも昔からあった遺跡が浮いたのか……調べて分かることでもなさそうだな」


 まあそれも気になるが、一番調べなきゃいけないのは『天使』のことだ。

 そもそもその噂がどこから出たんだろうなあ、この遺跡に誰一人として来てないというのに。


「これで周りはあらかた調べたか。後残っているのは……」


 俺は神殿の中央に置いてある台座に目を向ける。

 明らかに何かあります、って見た目の台座だ。ゲームだとあれに触るとイベントが進行するタイプの置物オブジェクトだ。


「鬼が出るか蛇が出るか……天使が出てくれると助かるんだけどな」


 俺は台座に近づき、それに触れる。

 すると……想像もしていなかったことが起きる。



【クエスト『四大天使降臨!』を再開します】



「……は?」


 突然現れるメッセージウィンドウ。

 このウィンドウは七剣騎士の英雄譚セブンナイツ・オンラインの中で使われているものだ。

しかも『四大天使降臨!』だって? それは七剣騎士の英雄譚セブンナイツ・オンラインで実際に行われたイベントじゃないか! 一体どうなってるんだ!


 しかし神殿は俺が混乱しているのを考慮してくれない。

 台座を中心に神殿は光り輝き始め……気づけば苔むしていた石畳は白く輝く石に変わっていた。どうやらこれがこの神殿の本当の姿みたいだ。


「――――我らが聖域に土足で入り込む不届き者よ」


 どこからともなく声が聞こえる。

 凛と透き通った綺麗な声だ。


「――――聖域を汚した罪を、その命であがなたまえ」


 次の瞬間、天空から眩い光が降り注ぐ。

 その光が消え去ると、光が落ちた地点に人が現れていた。


 本物の金のように煌めく金髪ブロンドと、作り物のように整った顔。

 歳は二十歳くらいか? 凛々しくて若々しい感じがする。髪と同じく金色の鎧を身にまとっているが、結構露出が激しくて目のやり場に困る。

 そして次に目を引いたのは背中から生えた六枚の翼。

 翼を六枚持つ天使は、最高位の天使のみ。つまりあの天使は俺と同じく『熾天使セラフィム』だ。


「しかも『ミカエル』ときたか。超有名な天使じゃないか」

「……私を見て驚かないとは、多少の知識は持ってきているみたいですね。では貴方が犯した罪も分かるでしょう。ここは四大天使が眠る地、人が踏み入ることは許されていません」

「なるほど、そういう設定だったのか。ならこれを見たらどうなる?」


 俺は操作画面コンソールを開き、見た目設定をいじる。

 すると背中から六枚の翼が現れる。これは『熾天使セラフィム』の種族を持つものに生える翼。だけど普段は邪魔なので見た目設定で消している。

 ちなみにこの翼で飛ぶことは出来ないが、飛行フライの効果時間が伸びるという地味な隠し効果がついている。


「……驚きましたね、貴方も熾天使セラフィムとは。しかし同族であろうと変わりはありません。私たち四大天使はいつかこの地に舞い降りる『神』のしもべ。それ以外の者がこの地に足を踏み入れたら排除するように言われています」


 ミカエルと名乗った天使は、腰に刺した剣を抜き放つ。

 彼女の髪と同じくその刀身は金色に輝いていた。


「――――それは同族であろうと変わりはありません。極光きょっこう熾天使してんしミカエル、参ります」


 それはまるで光の如き速さの斬撃だった。

 瞬きの間にミカエルは俺に接近し、黄金に輝く刀身で俺のことを斬りつける。警戒してなかったら受け止めることは不可能だっただろう。


「危ないじゃないか」

「……ほう、さすがは熾天使どうぞく。私の光の剣閃を受け止めるとは」


 ミカエルの目に、僅かに好奇の色が浮かぶ。

 ちょっとは俺に興味を持ってもらえたかな? 少し情報を引き出せるか試してみるか。


「ここは四大天使がいるんじゃないの? あんたしかいないように見えるが」

「貴様など一人で充分ということだ。減らず口を叩いている暇があるなら……力を見せてみろ!」


 ミカエルは一層激しく剣を叩きつけてくる。

 熾天使セラフィムのレベルは100。つまり能力値ステータス的には俺とミカエルはほぼ同じはず。だけど勝負は能力値ステータスだけでは決まらない、あらゆる複合要素によって戦いの結果は変わる。

 それを教えてやるとしよう。


遅延空間固定ディレイ・エアロック


 手を前に出し、魔法を発動させる。

 するとミカエルは警戒し後ろに下がる。しかし、


「何も起こらない……? はったりか?」

「時間をくれるとは優しいな。お言葉に甘えて回復するとしよう」


 俺はミカエルから視線を外さず、ノールックで操作画面コンソールを触って回復薬ポーション強化バフドリンクを取り出しそれを飲む。

 ノールックで操作画面コンソールをいじるのは実は高等技術だ、白銀騎士団の中でもこれをできたのは俺とあるかぷさんと後一人しかいなかった。


「ごくごく……ぷは」

「貴様、馬鹿にしているのか!」


 勝負中に優雅に回復していることに腹を立て、ミカエルはまっすぐこちらに向かってくる。

 ……よし、タイミングばっちりだ。


「これで終わ……なに!?」


 高速で動いていたミカエルの姿が、俺の目の前で突然ピタリと止まる。

 ミカエルにとってもそれは想定外の事態であったようで、驚いた表情を浮かべている。


「これは……いったい……!?」

「さっき使った魔法だよ。『遅延ディレイ』魔法は発動までに遅延ディレイが生じる。使いにくいことこの上ないが、その代わり相手の耐性をある程度突破できるようになる。天使系種族は状態異常耐性が優秀だからこの手の魔法は効果が薄いのだが……こうすれば捕らえることもできる」

「この……っ!!」


 ミカエルは俺を強く睨みつけるが、体は動かない。

 遅延ディレイ魔法戦法は、昔よくプレイヤー相手に使っていた戦法だ。

 相手の動きと魔法の発生時間を計算して行うこの戦法は、かなり難しくて誰にもできることじゃない。久しぶりだから上手く出来るか心配だったけど、ちゃんと体が覚えていてくれて助かったよ。


「さて、その拘束はしばらくは解けないが……負けを認めてくれるかな?」

「負けを認めるだと? ふざけるなよ、私は……私達・・はまだ負けていない!!」


 ミカエルがそう言った瞬間、彼女が現れた時のような光が再び神殿に降り注ぐ。

 そして今度は三体の天使がこの神殿に舞い降りた。


「まさかミカちゃんがやられるなんて……驚きました」

「ミカエルは油断してたんだろうが、俺たちはそうはいかねえ。年貢の納め時ってやつだ」

「なんでもいいからとっととやろうぜ。めんどくせえ」


 現れたのは青い髪をした柔和そうな女性、筋肉質な男、そしておっかない目つきをした女性の三人だ。三人とも背中からは六枚の翼を生やしている。全員が『熾天使セラフィム』ということで間違いなさそうだ。


「ここからは私たちも相手をします侵入者よ。私は浄水の熾天使、ガブリエル」

「そして俺は快風の熾天使、ラファエルだ」

「……滅火の熾天使、ウリエル」


 これで有名な四大天使全てがここに揃ったことになる。

 相手は全員レベル100で間違いないだろう。

 さて、俺一人でどこまでやれるだろうか。

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