第3話 空へ…

 翌日。

 万全の準備を整えた俺は朝早く村を発った。


召喚コール天馬権天使ペガスプリンシバル


 俺はひと一人乗れる大きさのペガサスを召喚する。

 このは人を乗せて少しの間飛べる上に、陸の走破能力も高い。移動に使うにはぴったりだ。


「頼むぞ」

「ブルルッ」


 気合を入れるようにいななく天馬権天使ペガスプリンシバル。頼りになりそうだ。


「こうやってペガサスに乗って移動するのも、久しぶりだな」


 草原を高速で駆け抜けながら、昔を思い出す。

 白銀騎士団の他のメンバーも種族は天使系で固定されていて、もちろんみんな天使を召喚することができた。


「みんなでペガサスに乗って意味もなく駆け回ったりしたな……懐かしい」


 心地よい風を浴びながらそんなことを考えていると、ペガサスはあっという間に山にたどり着き、登り始めてしまう。


「足場が悪いけど頼むぞ」

「ブルッ」


 普通の馬なら岩場の走行は困難だ。

 しかし俺が乗っている馬には大きな翼が生えている。

 岩から岩へ軽やかに飛び移り、ペガサスは山をすいすいと登っていく。山登りをすること三十分、俺は目的地点である山頂にたどり着いた。


「ふう、いい景色だな」


 振り返ると眼下に森と平原が広がっていた。

 あそこがジマリ村かな? ここからじゃよく分からない。


 俺はひとしきり景色を楽しんだ後、振り返って逆方向を見る。

 今度は地面じゃなくて空をジッと見る。

 確かあっちの方角に……ん? あれは……


「見つけた」


 まだ遠くて形はよく分からないが、遠くからこっちに飛んでくる黒い影を俺は見つけた。

 間違いない。あれがお目当ての『天空の神殿』だ。

 航路はバッチリ予想通り。完璧な下調べだったな。


「飛べる時間には限りがある。ギリギリ近づくまで待つから、休んでてくれ」

「ブルッ」


 俺は視界に天空の神殿を収めたまま、持ってきたサンドイッチを食べる。

 これはシアが用意してくれたもので、出かける時、家の扉にかかっていたのを見つけたに。どうやら昨日の夜に作ってくれていたみたいだ。

 本当に気の利く子だ。将来いいお嫁さんになるだろうな、彼女は働きたがるタイプだと思うけど。


「うむ、うまい」


 酸味の効いた俺好みのソースが入っていた。

 量もたくさんあってこれなら力が出そうだ。七剣騎士の英雄譚セブンナイツ・オンラインから持ってきた野菜も入っているので普通に体力とかも回復する。


「……そろそろか」


 天空の神殿は俺が腹ごしらえしている間にかなり近づいてきていた。

 これくらい近寄れば着陸できそうだな。


「行くぞ」

「ブルルッ!」


 再びペガサスにまたがり、天空の神殿めがけ跳躍する。

 近づいたとはいえ、神殿までの距離は数百メートルある。ペガサスは羽を広げ、滑空するように近づく。


「ルル……ッ!」


 高度が落ち始め、ペガサスは慌てたように羽ばたく。

 しかし俺を乗せているせいもあり、徐々に高度は落ちてしまう。このままだと神殿にはたどりつかないだろう。


「ありがとう。ここまでで充分だ」


 俺はペガサスの上に立ち、跳ぶ。

 そしてやりきった目で俺のことを見るペガサスの召喚を解除した後、すぐさま魔法を発動させる。


飛行フライ!」


 浮遊感が体を包み込み、俺は空を飛行する。

 飛行フライはそれほど長い時間使える魔法じゃない。しかしペガサスが距離を稼いでくれたおかげで、余裕を持って天空の神殿に俺はたどり着くことができた。あいつには感謝しないとな。


「到着、と。さて、なにがあるかな?」


 天空の神殿に着陸した俺はあたりを見回す。

 思ったよりも狭い場所だ。白銀城よりもずっと小さい。

 古い石で出来ていて、遺跡って感じだ。何かお宝が眠っている匂いがぷんぷんする。


「でも天使は見当たらないな。ガセ情報か?」


 ここにたどり着いた人は一人もいないと言っていた。

 だから天使がいないのはしょうがない話だ。でも期待していたからやっぱりちょっとがっかりする。


「まあ取り敢えず調べてみよう」


 俺は天使がいることを祈りながら、探索を開始するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る