第3章 天空の神殿

第1話 準備

「ふはは、大量大量」


 俺はたくさんの素材が詰まったアイテムボックスを見て、ほくそ笑む。

 村の開発も一段落した俺は、村近くの鉱山に行き鉱石を採集していた。


 それほど質のいいものがあるわけじゃないけど、七剣騎士の英雄譚セブンナイツ・オンラインにはなかった鉱石もあるのでテンションが上がる。

 オタクは素材集めが本能レベルで好きだからな、ついつい時間を忘れてやり過ぎてしまう。


 俺が村に帰ったのは日がだいぶ傾いてからだった。

 最初よりだいぶ賑やかになった村を見て、俺は改めて感慨深くなる。


「もう村っていうより街だな。名前を変えてもいいかもな」


 俺の傘下になった白狼族の一部もこの村に住んでいる。

 他の村から移住してくることもあったので村の面積はどんどん増えている。


 建物も魔法で簡単に作れたので村の規模はまだまだ大きくなる予定だ。街づくりゲームも好きだったので、発展していく様子は見ていて楽しい。


「おかえりなさいませダイル様。ずいぶん楽しまれたみたいですね」


 村を歩いていると、貼り付けたような笑みを浮かべているシアに出迎えられる。

 これはかなり怒っている顔だ。

……そういえば暗くなる前に帰ると言ってた覚えがある。素材集めに夢中になっていてすっかり忘れていた。


「いや、ちょっとそれは理由が……いや、すまん」


 言い訳するのを諦め、素直に謝る。

 下手な言い訳なんてすぐに見抜かれてしまうだろう。ここは謝罪が正解だ。


「つーん」


 シアは唇を尖らせながらそっぽを向く。

 精一杯悪態をついているつもりなのだろうが、かわいいだけだ。

 とはいえこの状態でずっといられるのは困る。シアには俺のやっていることの大部分の指揮を取ってもらっている、これじゃあ全てのタスクがストップしてしまう。


「機嫌を直してくれシア。ほら、シアの好きなフルーツが採れたんだ。好きなだけ食べていいぞ?」

「つーん」

「本も好きだったよな? 私の世界の本とか興味ないか?」

「つーん」

「ぐ……っ! じゃあ明日二人でどこか出かけよう!」

「しょうがないですねえ! どこに行きましょうか!」


 なぜか爆速で機嫌が治った。

さっきまであんなに不機嫌だったのに、今は口笛なんか吹いてしまっている。そんなに外に行きたかったのだろうか。


「……明日の予定は後でじっくり決めるとして、ダイル様にお伝えしなきゃいけないことがあります」

「ん? なんだ?」

「今日の昼頃、王国の者が村にやってきました。ダイル様の想定通り、こちらから王国に出向くことになると思います」

「……そうか」


 そろそろ来る時期だと村長が言っていたけど、本当に来たか。

 驚きはしない。だけど少しドキドキするな。

 一体向こうはどう出てくるだろうか。


「向こうはすぐに使者を向かわせると言っていました。おそらく使者が来るまで早くて十日はかかるかと思います」

「そうか。こっちの準備も終わらせておかないとな」


 馬車一台で出向かれたらナメられる。

 こっちもそれなりに威厳ある感じでいかないといけないだろう。


「本来なら白銀城で乗り込みたいところだが、まだ復旧の目処が立っていないからなあ」

「そうですね。あの素晴らしい城を見れば、王国も立場をわきまえすぐに軍門に下ると思うのですが」


 シアはおっかないことをいう。

 俺は王国を従えるつもりなんかないぞ? 適度に友好関係を結ぶことができればいいんだが……。

 それをそのまま伝えてもまた「謙虚ですね」と言われるのがオチだから言わないけど。


「天使の軍隊を作るのはいいな。見た目は派手にしたい」

「でしたらモンスターを従えるのはどうでしょう? 天使様の素晴らしさが分からない者にも分かりやすくダイル様の凄さが伝わると思います」

「それはいいな。ドラゴンを召喚する魔法も確か覚えていたはず。後で確認してみるとしよう」


 シアとの会話が弾む。

 なんだか楽しくなってきたな。こんな風に作戦を立てているとギルド戦を思い出す。


「天使を連れて行くのはいいとして……人間も何人か同席してほしいところだな。喋れる存在が私しかいないというのも、向こうから見たら不気味だ」

「そう、ですね……。私が子どもじゃなければよかったのですが」


 しゅんと落ち込むシア。

 彼女は能力的には申し分ないが、子どもを隣に連れていたら向こうに変に思われるだろう。それが分かっているからシアも「私が行きます!」というのを押さえているのだ。


 しかしどうしたものか。

 連れていけそうな人物と言ったらジマリ村の村長ガファス、白狼族の長トゥングル、そして神父のマーカスが思い浮かぶ。

 あのやかましい神父はいいとして、他二人は歳を召しているからなあ。


「どうしたものか……」


 考え込むが、いい案は出ない。

 すると同じように考えてくれていたシアが「あ」と声を出す。


「ダイル様、それでしたら『天使』を仲間にするのはいかがでしょうか?」

「天使を? それはどういう意味だ?」

「ダイル様はこちらに来て日が浅いのでご存知ないでしょうが、ここロパ地方には『天空の神殿』と呼ばれる場所があるのです」

「天空の神殿……か。中々興味をそそられる名前だな」


 ゲームだったら確実にレアアイテムか隠しボスがある。もしくはストーリーに関係ある重要な場所ってところか。

おっとついゲーム脳が暴走してしまった。


「その神殿には天使が住んでいる、そう言われているんです」

「そのような場所があったのか。でも言われている・・・・・・ということはまだ確認できていないのだろう? すぐに荒らされそうなものだが」

「もちろんそれには理由があります。『天空の神殿』はその名の通り、空中を浮遊して動いているのです」

「なんだって……!?」


 それを聞いて俺の脳裏に浮かんだのはもちろん『白銀城』だ。

 宙を浮く建物。そして天使。白銀城と天空の神殿はよく似ている。


 これはたとえ天使がいなかったとしても、確認にいかなければいけないな。

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