第21話 宴
「それでは我々の勝利と、そしてなにより我らが恩人ダイル様に、乾杯!」
村長のトゥングルがそう言うと、他の白狼族たちも「乾杯!!」と大きな声で言い、手にした酒に口をつける。
オークとの戦いから一夜明けた昼間。
白狼族は夜を待てず昼から宴を始めてしまった。
実際にオークと戦った白狼族は少ないけど、動ける者たちは茂みに隠れていつでも戦える準備をしていた。
村で待っていた人も気疲れしているだろうに。みんな元気だな。
「ダイル殿、食べてらっしゃいますか?」
「ええ。楽しませていただいてますよ」
のんびり食事を楽しんでいるとトゥングルがやってくる。
さっき乾杯したばっかなのにもう頬がほんのり赤くなっている。かなり飛ばして飲んでいるみたいだな。
「ダイル様には感謝してもしきれませぬ。オークを退けていただいただけでなく、我らに戦う力までくださいました。貴方は我らの救世主です」
「そんな大げさですよ」
俺の方も感謝したいくらいだ。
ここで試した色々なことはこの先も役に立つだろう。それにオークという『悪』は見過ごせない、早めに倒せてよかったと思っている。
「してダイル殿、差し出がましいのですがひとつお願いを聞いていただけませんでしょうか」
「ん? 何でしょうか?」
「はい。ダイル様は現在自らの国を立ち上げるべく、協力者を集めていると聞きました」
「……ん?」
なんのことだ? と混乱する。
誰が言った……かは聞かなくても分かる。シアだな。
流石に慣れてきたので想像がつく。
俺の城を直すという話を『国を作る』と拡大解釈したのだ。
シアは俺を過大評価しているからな、話を大きくしてしまう。そんなんじゃないと言っても謙遜と捉えられてしまうから厄介だ。
「ま、まあ似たようなことは考えていますね」
曖昧な返事でごまかす。
それを聞いたトゥングルは想像していなかったことを言い出す。
「ぜひ我ら白狼族を傘下にいれていただきたいのです」
「傘下……?」
つまりそれは俺の配下になるってことだよな?
白狼族とは今後も友好関係を築いていこうと思っていたけど、三段跳びくらいに話が進んでしまった。
「昔は強力な獣人として恐れられていた白狼族ですが、今はもう見る影もありません。数も少なくなってしまいました。おそらくこの大陸に残っているのは我らだけ……そう思います」
他の獣人を知らないから知らなかったけど、そんなことになっていたのか。
不謹慎かもしれないけどレアな種族ってことだ。ゲーマーとしてはテンションが上がる。
「このまま滅ぶのも致し方ない、そう思っていましたが……今は違います。我らの中に眠る白狼の血の強さを、ルナを見て思い出しました。滅ぶにはまだ早すぎる、そう思ったのです」
語るトゥングルの目から強い意志を感じる。
ルナの強さを見て火がついたみたいだな。
「そしてその強さをぜひ、ダイル様のために役立てたいのです。貴方はきっと大きなことを成し遂げる。その一助になりたいのです」
「……本当によいのですか? 私は貴方たちの思うような人物じゃないかもしれませんよ」
「構いませぬ。これは私だけでなく、村の者の総意です」
「……分かりました、そこまで言うのでしたら。ぜひその力、貸してください」
トゥングルは俺の言葉に跪くことで応えた。
こうして俺に新しい仲間が増えたのだった。
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