第19話 白狼の群れ
「ぐるるる……」
喉を鳴らし、威嚇をしながらルナは歩を進める。
体こそ小さいが放たれる殺気は大型肉食獣のそれであった。
その殺気は歴戦のオークたちでさえも怯んでしまうほど恐ろしいものであった。
「おー、すごいな」
そんな風にルナたちがオークを圧倒している様子を、遠くから双眼鏡で覗いている人物がいた。
白銀の鎧に身を包みし騎士、ダイルだ。彼は木の上に立ちルナたちを見守っていた。
「これなら大丈夫そうだな」
「はい。オークたちのレベルは35程度。彼らのボスであるハイオークも40程度でしたので問題ないと思います」
ダイルの横にいるシアが答える。
彼女もまた高い木の上に立っている。一昨日まではそのようなことできなかったが、レベルが50になり身体能力がかなり上がった今となっては余裕でそれくらいできる。
もしここから落下したとしても無傷であろう。
「しかし本当によろしかったのですか? ルナちゃんだけならまだしも、他の白狼族まで強くしてしまって」
「獣人は義理堅い種族だ、裏切ったりすることはないだろう。それにルナ以外の者はレベル40で止めている。何人裏切ったところで障害にはならない」
「さすがダイル様! ちゃんと最悪の事態を見越してらっしゃるのですね!」
シアが黄色い声を上げる。
他人を強くするのがリスキーな行動であることはダイルもよく分かっていた。
しかし白銀城を直すのにも、彼の理想とする正義を実現するために『力』は必要不可欠であった。
力の伴わない正義はただの理想論である。
彼はそれを小学生の頃に身をもって学んだ。
「今度は失敗しないさ……」
ダイルは誰に言うでもなく、そう呟いた。
◇ ◇ ◇
「や、やれ! そのガキをぶち殺せ!」
たくさんのオークたちが武器を手にルナに襲いかかる。
四方八方から突き出される剣、槍、棍棒。ルナはそれを一瞬にして見切り、体を捻りながら跳躍して回避する。
「はあっ!」
そして鋭い爪で近くにいたオークの首を切り裂く。
首から勢いよく吹き出す血。かなりショッキングな光景だが、ルナはそれを意に介さず次の獲物のもとに向かう。
レベルが上ったことにより彼女の血に流れる白狼族の本能は覚醒していた。
普段は大人しくぶっきらぼうな彼女、しかしひとたび戦闘が始まると獣人としての本能をむき出しにして戦う狩人へと変貌した。
「――――そこっ!」
ルナのするどい回し蹴りがオークの首に命中し、メギリと骨が砕ける音がする。
オークは多少の傷を受けても戦闘を続ける
「つ、強すぎる……」
オークたちの間に絶望感が漂う。
とてもじゃないがあの少女に勝てる気がしなかった。
それに敵はあの少女だけではない。他の獣人たちも少女ほどではないが強く、まだ一人も倒せていなかった。
それだというのに最初は七十人いたオークの数はもう半分になっていた。
このままでは負ける。オークたちの間に諦めの空気が流れる。しかし、
「がああああっ!」
咆哮とともに、ものすごい速さで棍棒が振るわれる。
まるで丸太のごとき太さのその棍棒は、獣人の一人に命中する。
「く……っ!」
その獣人は咄嗟に武器でガードしたものの、衝撃を受け止めきれず吹き飛び地面を転がる。
大きな怪我こそしなかったが、痛そうに顔を歪めている。
彼を吹き飛ばしたのはオークの
ハイオークは棍棒を構えながらゆっくりと獣人に近づく。
「犬っころが調子づいてんじゃねえぞ! 貴様らは俺らのエサなんだよぉ!」
「……っ」
恐ろしい表情で凄まれ、獣人は尻込みする。
このままだと殺される――――そう思ったが、ハイオークの前にルナが立ち塞がる。
「お前の相手は、わたし」
「ガキが! 貴様からぶち殺されてえか!」
ハイオークは再び棍棒を振るう。
先程はオークによる一撃を体で受け止めたルナだが、今度はその攻撃を避けた。さすがにその攻撃はノーダメージで済まないと彼女も理解していた。
「どうした! 避けるだけか!?」
「…………」
ルナは言葉を発さず、回避に専念する。
そしてハイオークの攻撃をじっと見て、よく観察していた。
「これで……終いだ!」
ハイオークは全身全霊の力を込め、棍棒を振るう。
その一撃はルナを捉えた……かに見えたが、当たる直前にルナの体が急に消え、棍棒は空振りしてしまう。
「なにぃ!?」
まるで幻を見ていたかのようだ。ハイオークは激しく混乱する。
右を見ても左を見ても下を見ても相手の姿は見えない。
それも当然、ルナは今、ハイオークの頭上にいた。
「――――スキル〈瞬足〉」
それは強くなることで彼女に芽生えた
目にも留まらぬ速度で移動することで、相手の視界から一瞬にして消えることができるスキルだ。
後は相手が自分を見失っている内に……視界外からトドメを刺すだけ。
「白狼術……
落下しながら接近したルナは、両手の爪を交差させながら✕の形に相手の喉を切り裂く。
ハイオークが気がついた時にはもう遅い。すでに喉は深々と切り裂かれ声を発することすらままならなくなっている。
「が……ぱ」
そして白狼族を苦しめたオークの
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