第17話 クラフト

 村に帰ったのは、シアとルナのレベルが50になった頃だった。

 その頃には二人とも強くなった体にだいぶ慣れていて、トレントくらいならば二人でも余裕を持って倒せるようになっていた。


 特に白狼族であるルナの成長は著しかった。

 森の中を高速で駆け回り、モンスターを狩る姿は本物の狼。もうオーク程度であれば簡単に倒せるだろう。


 反面シアはそれほど戦闘は向いてないように見えた。

 まあ素手格闘が向いてないだけで武器を持ったり魔法やスキルを覚えたら変わるかもしれない。今度魔法を教えてみるのも面白いかもしれないな。


「さて、二人とも。二人には次のお願いをしたい」


 村に戻った俺は、ルナの家で二人にそう言う。

 そしてアイテムボックスの中からある金属を取り出して、二人に見せる。


「ダイル様。これはなんでしょう?」

「これは『アストラ鋼』と呼ばれる特殊な金属だ。お前たちに渡した『同行の指輪パーティリング』を作る素材となる。ルナにはこれで『同行の指輪パーティリング』を作ってほしい」


 そう言うとルナは困ったように眉を下げる。


「私、ぶきよう。こんなの作れないと思う」

「ああ、それは安心してくれ」


 俺は再び操作画面コンソールをいじくり、四角系の木箱を取り出す。

 大きさは両腕で抱える事ができるくらい。それをルナの前に置く。


「これは?」

「これは『クラフトボックス』。素材を入れれば簡単な物なら自動で作ってくれるアイテムだ。ここをこうして……よし。これで自動で『同行の指輪パーティリング』を作ってくれるようになった。試してくれ」

「う、うん」


 ルナはおっかなびっくりな感じでクラフトボックスの蓋を開ける

 そして手にしたアストラ鋼を中に入れて、蓋を閉める。


「いいぞ。最後に蓋についてる赤いボタンを押してくれ」

「こ、これ?」


 びくびくしながらもルナはボタンをポチッと押す。

 するとガガガガ! とクラフトボックスが振動する。


「ひゃ!」


 突然の音にルナは驚き、耳と尻尾を逆立てながら飛び跳ねる。

 そして俺の頭にギュッと抱きつきブルブルと震える。狼なのに猫みたいな反応だな。


「ルナ。もう大丈夫だから下りなさい」

「ほ、ほんと?」


 まだ警戒しているルナを抱え、下ろす。

 その様子を見ているシアは少し不満げだ。ルナばかり構っているので拗ねているのだろうか? まだまだ子どもだな。


「ほら、箱を開けてみろ」

「う、うん」


 クラフトボックスを開けるルナ。

 すると中には綺麗な『同行の指輪パーティリング』五個入っていた。よし、成功だ。


「この『同行の指輪パーティリング』の作成者はルナだ。つまりこの『同行の指輪パーティリング』をつけた者は、ルナと経験値を共有することになる」

「けいけんち……きょうゆう……?」


 首を傾げるルナ。

 そういえば経験値という概念はちゃんと説明してなかったか。

 この先やりたいことのためにもルナには理解してもらう必要がある。俺はなるべく優しく、わかりやすいように説明する。


「――――ということだ。分かったか?」

「んー……たぶん」


 これは分かってない時の反応だ。

 こっちの世界にゲームはないし、理解するのも簡単じゃないよな。やはり付きっきりで教えなきゃいけないか。


「……なるほど、理解しました」


 そう発言したのはシアだった。

 俺はルナだけに向けて話してたけど、すぐ側にいたシアにも当然聞こえているか。


「つまりルナちゃんの『同行の指輪パーティリング』を白狼族の人たちにつけて、レベリングをしてほしい、ということですね? そしてオークを倒せるくらいにはしてほしいと」


 そこまでは説明してないのにシアは超速理解してくれていた。

 やっぱりこの子が普通の村娘なのは無理あるって。


「そういうことだ。私はオークのレベルを確認したいから、その作業の指揮は二人に頼みたいのだけど、大丈夫か?」

「はい、もちろんです。全部私にお任せ下さい!」


 シアは自信満々に答える。

 一方ルナは「わ、私は自信ないけど大丈夫?」と不安げだ。


 んー……まあシアがいるなら大丈夫か。一応大天使騎士アーク・エンジェルナイトを数体つけておこう。それなら滅多なことは起きないだろう。


「じゃあ明日から早速頼むぞ。私はいないけど頑張ってくれ」

「はい!」

「が、がんばる」


 これで明日のやることは固まった。

 今日はもう休むとしよう。


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