第11話 白狼住まう村
――――とまあこんな事が以前あった。
あれから色々考えたが、最初に強くするならやはりシアじゃないかという結論に至った。
この子は頭は回るが肉体的には普通の女の子だ。
最近は私のためにと知らないところでも色々働いてくれているみたいで、そのせいで疲労が溜まっているように見える。
無理に働かなくてもいいと言っても彼女は止まらない。だったらいくら動いても疲れない体になればいいと考えた。強くなればまた盗賊などに襲われても返り討ちにできるしな。
「……そろそろ着く」
先頭を歩く獣人のルナがそう言う。
現在俺とルナとシアは鬱蒼とした森の中を歩いている。
向かう先はルナが住んでいる村だ。もう少しで着くと言うが、周りに人の気配はなく、道もない。とても村があるようには思えないが。
「着いた。あれがルル村。私の住んでるとこ」
ルナが指差す方を見ると、確かに村がでてきた。
ただ人間の住む村とは全然違うな。普通人間の住む村は木を切り開いてから家を建てたりするが、彼らの村は木をそのまま利用し家にしている。
もちろん少しは木を切って広場を作って入るがそれも最小限。ジャングルに住む原住民みたいな感じだ。
「きて」
ルナの後ろをついていき、村の中に入っていく。
この村に人間が来るのは初めてなんだろう。村に住む獣人たちがジロジロと俺たちのこと見てくる。子どもは単純に興味から、大人は警戒してるって感じだ。
まあシアだけならまだしも俺みたいなゴツい甲冑をつけた人物がいれば警戒するのも当然だ。
そんなことを考えていると、ルナの足が一件の家の前で止まる。
木で作られた質素な家だ。ただ他の家と比べると大きいので偉い人が住んでいるのかな?
「ちょっと待ってて」
そう言ってルナは家の中に入っていく。
待つこと約五分。ルナが家から出てくる。
「村長がダイル様に会うと言ってる。お願い」
「なるほど、村長の家だったのか。そうだな……村長とは一人で話してくるから二人は適当に時間を潰しててほしい。今日は特に何かする予定もないから遊んでてもいいぞ」
「で、ですが……」
俺の提案にシアが難色を示す。
ジマリ村にいる時でもシアは遊びより俺の手伝いをしたがる。俺の役に立ちたいと思ってくれるのは嬉しいけど、たまには遊ぶのも大事だ。
せっかくルナという新しい友達ができたというのに。何を話しているかは知らないけど、最近は二人して楽しそうにしているのを村でよく見かける。
うーん、どうしたものか。
村長との話し合いくらい一人でできるからシアには遊んでリラックスしていてほしかったんだけど。
ただそう正直に言ったところで納得しないだろう。何かそれっぽい理由をつけるとするか。
「分かったシア。お前に一つ仕事を与えよう」
「は、はいっ! なんでも言って下さい!」
「私たちはまだこの村の人たちに警戒されている。しかしそれはあまり好ましい状況ではない」
「はい、そうですね」
「そこでだ。ルナと仲良く遊んで、私たちに敵意のない安全な人物だということを周りに伝えてほしいんだ。この方法は私にはできない。まだ幼くあまり警戒されてないシアにしか頼めないことなんだ」
「私にしか……できない……! 分かりました、私にお任せ下さい!」
シアはやる気満々といった感じで答える。
ふう、なんとか説得できたな。
しかし思いつきで喋ったとはいえ、我ながらいい案じゃないか? 俺が色々動くよりもずっと効果的に感じる。
「じゃあよろしく頼むぞ、シア」
「はい! お任せください!」
意気込むシアときょとんとしているルナを置き、俺は村長の家に入るのだった。
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