第10話 実験

 ――――時は少し遡る。


 その日俺は考え事をしていた。

 それはこの世界における『レベル』の概念ついてだ。


 相手のレベルを確認できる魔法『強度情報レベルシーイング』。これをこの世界にいる人間に使うと、普通に発動しレベルを確認することができた。

 子どもはレベル1~2くらい、大人は4~7くらいが平均だった。


 成長していく内にこのレベルは自然と上がっていくのは想像がつく。

 じゃあ七剣騎士の英雄譚セブンナイツ・オンラインみたいにモンスターを倒してもレベルは上がるんだろうか?


 もし上がるなら、強い仲間を作ることも簡単になる。それはぜひとも研究しておきたかった。


「おお! 我がしゅよ! 出会えて光栄です!」


 村の中を歩いていると、急に声をかけられる。

 見るとそこには金髪の若い男がいた。

 彼の名前はマーカス。この前奴隷になっていたところを助けた神父だ。

 こいつにも故郷に帰るよう言ったのだけど、彼は一つの街にとどまらず旅をしながら布教する変わった神父だった。


 俺のことをすっかり神だと信じ込んでいるこいつは、ジマリ村に残るといい出した。

 そして俺に出会うたびやかましいテンションで祈っていく。正直うっとうしいが、あまり邪険にするわけにもいかないため我慢している。


「して我が主ダイル様。なにかお悩みのようでしたが……どういたしましたか?」

「……意外と察しがいいな」


 マーカスはそこそこ顔がいいし、気配りも利く。女にモテそうなタイプだ。

 うーん、こいつはいつも暇してそうだし俺の実験に付き合ってもらうのもいいかもしれない。多少乱暴な実験をしてもこいつなら良心が痛まないしな。


「こほん。マーカスよ、少し手伝ってほしいことがあるのだが時間はあるか?」

「もちろんです我が主よ! このマーカス、いかなる試練でも乗り越える所存です!」


 大げさな身振り手振りをしながらマーカスは答える。

 よし、言質は取った。思う存分付き合ってもらうとしよう。


「よし、それじゃあ森の方に行くぞ。着いてこい」

「仰せのままに!」


 こうして俺はやかましい協力者と共に歩き出すのだった。



◇ ◇ ◇



 俺がマーカスとともにやってきたのはユルドの森。

 この世界にやってきた時に最初に訪れた地であり、シアと出会った場所でもある。


 広いし人も来ないので何か実験をするにはうってつけの場所だ。


「時にマーカス。お前は『レベル』と聞いて何か心当たりはあるか?」

「れべる……ですか? 申し訳ありませんがこのマーカス聞き覚えがありません……! 

ああ、不出来なこの頭が憎い! どうぞ罰して下さい!」

「いや、知らないならそれでいいんだ。わざわざそんなことで罰したりはしない」

「あぁ! なんと寛大なのでしょう!」


 いちいちうるさくて調子が狂うな。

 とっとと話を進めよう。


「じゃあモンスターを倒したら強くなるという話は聞いたことがあるか?」

「そうですね、一般的にモンスターと戦う者が早く強くなるというのは我々の常識です。なんでもモンスターを倒した者には、そのモンスターの生命力が流れ込んでくるとか」

「ほう……なるほど」


 この世界での経験値はそういう扱いになっていたのか。

 となると七剣騎士の英雄譚セブンナイツ・オンラインと同じ方法で強くなることができそうだな。


「マーカス。今から実験的にお前を強くしようと思う。構わないか?」

「もちろんです我が主よ。神父となったその日から、この身は神に捧げています」


 彼が信奉している神とは別人だと思うが……まあいい。

 俺はさっそく実験するために、マーカスにある指輪を差し出す。


「まずはこれをつけてくれ」

「仰せのままに」


 マーカスは何一つ警戒せず指輪をつける。

 彼がつけたのは『同行の指輪パーティリング』というアイテムだ。これをつけた者はその指輪を作った者と強制的に同じパーティに入る。もちろん距離が離れるとパーティは解散されるが。

 同じパーティにいる者は経験値が共有される。

 つまりこの指輪の効果が活きているなら、俺がモンスターを倒すとマーカスにも経験値が入ることになる。


 ちなみに七剣騎士の英雄譚セブンナイツ・オンラインではこれ以外にも操作画面コンソールでパーティ機能を使ったり同じギルドメンバーになることで簡単にパーティを組むことができた。

 だけどこっちの世界では操作画面コンソールに「パーティ」の項目がなくなっていた。そしてマーカスをギルドに入たくないので『同行の指輪パーティリング』を使う方法しか残っていなかった。


強度情報視認レベルシーイング


 マーカスのレベルは現在7であった。人間の中ではそこそこ強いほうだ。

 それを記憶した俺は、次にあるアイテムを取り出す。

 小さなボールの形をしたアイテム、名前は『捕獲玉キャプチャーボール』結構ギリギリなネーミングだ。

 それを発動すると中からモンスターが飛び出してくる。


『ブルルルルルッ!』


 飛び出してきたのは牛型のモンスター『ジャイアントブル』。七剣騎士の英雄譚セブンナイツ・オンラインに出てくるレベル10程度のモンスターだ。

 以前こいつをゲーム内で繁殖させようとした時、捕まえてアイテムの中に封印していたのだ。だけどそんな事すっかり忘れてアイテムボックスの奥に眠らせてしまっていた。

 レアなモンスターでもないし実験に使ってもいいだろう。


「お話!? モンスターが急に!!」

「下がっていろマーカス」


 慌てるマーカスを下がらせ、俺は魔法を発動する。


切断スラッシュ


 指を鳴らすとともに魔法の刃が煌めき、ジャイアントブルの体を切り裂く。


 レベル10のジャイアントブルにそれを耐えることは当然できず、その場に崩れ落ちる。

 ていうか試してなかったけど、七剣騎士の英雄譚セブンナイツ・オンライン産の生き物も死んだら死体になるんだな。ゲーム内だと死んだモンスターはすぐにドロップアイテムに変わったんだけど。

 こっちの世界では素材が欲しかったらちゃんと解体しないといけない。七剣騎士の英雄譚セブンナイツ・オンラインに慣れているから少し面倒に感じてしまう。


「び、びっくりした……今のはいったい……?」

「今のモンスターは私が呼び出したものだ。それよりマーカス、なにか体に変化はないか?」

「変化ですか?」


 マーカスはきょとんとしながら自分の体を眺める。

 もしかして失敗か?


「……申し訳ありません。特に変わった様子は感じません」

「ふむ。確認しておくか。強度情報視認レベルシーイング


 再びマーカスのレベルを確認する。

 すると彼のレベルは8になっていた。ジャイアントブルを倒す前より1上がっている。


「レベルが1上がったくらいじゃ変化は実感できないのか。これが一気に10とか上がれば実感するようになるのだろうか」


 検証する必要がある。

 しかしそれを検証する相手は慎重に選ぶ必要がある。なぜなら検証した人物に裏切られる可能性もあるからだ。

 レベル100まで上がってしまったら、俺を殺せる可能性が出てきてしまう。蘇生アイテムも持っているが……この世界で機能するかは分からない。

 こっちにいる人間で検証してみるのもいいが、こっちの人間で成功しても俺にも同様に機能するかはまた別の話だ。


 死んだらお終い。

 そう考えて行動したほうがいいだろう。


「ありがとうマーカス。今日の実験は終わりだ、指輪を返してもらえるか?」

「……かしこまりました。またいつでも声をかけて下さい」


 俺がなんの実験をしているか気になっている様子ではあったが、マーカスは俺に指輪を返した後、何も聞かずに去っていった。

 別にこいつが裏切ると思っているわけじゃないが、下手に知識を与えると後でとんでもないことになる可能性がある。力にしろ知識にしろ、与える相手は慎重に選ぶべきだ。


「さて、誰に試したものか……」


 俺は思案しながら村に戻るのだった。

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