第5話 執行

 俺の職業ジョブは聖騎士だ。

 近接、魔法どちらもこなせる万能職。固有装備もかっこよくて人気のある職業ジョブだ。


 しかし上位プレイヤーにはこの職業ジョブはあまり人気がない。

 聖騎士は一人でなんでも出来るが、器用貧乏ともいえる側面があるからだ。それよりも替えの利かなくて一芸に秀でた『狂戦士バーサーカー』や『魔導師』の方が人気がある。


 それでも俺が聖騎士を好むのは、その『攻撃速度の速さ』だ。

 対ギルド戦ではどれだけ高火力な技を出せるかとどれだけ相手を妨害できるかが重要で、そういうのは先に挙げた職業ジョブが有利だ。


 だけど個人戦に限っては攻撃速度の速さはかなり勝敗に直結する。

 そもそも個人の耐久力はそれほど上げることは出来ない。硬い防具で固めても防具と防具の切れ目の部分を斬ってしまえば関係ないしな。


 キン、という金属音と共に銀色の閃光が走る。

 俺の放った斬撃は盗賊の腹部をやすやすと切り裂き、その生命を奪った。


「ばか、な……」


 何が起きたのかすら理解できないまま、盗賊はその場に崩れ落ちる。

 俺は剣を振り刀身についた血を落とすと、鞘にしまう。


 ゲーム以外で命を奪ったのは初めての経験だ。

 だけど案外たいしたことはないな。今の体がアバターだからだろうか? まだゲームの中だという気持ちが抜けてないのかもしれない。


「……っと、考え事が長引いたな。まずは彼らを助けないと」


 俺は奴隷が捕まっている牢を掴んで、力任せに開く。

 すると鉄の檻がぐにゃりと曲がり外に出られるようになる。


「あ、あなたは……?」

「私はダイル。助けに来た。ここを出るぞ」


 そう言うと捕らえられていた人たちがわっと喜び、目に生気が戻る。

 中には泣き出す人までいる。


「ありがとうございます! なんとお礼を言っていいか……」

「それは後だ。まだ盗賊たちは生きている」


 そう言うと彼らの顔が再びさっと青ざめる。

 盗賊に後れを取るつもりはないけど、一応保険はかけておくか。


召喚コール守衛能天使シールダーオーソリティ


 幾何学的な水晶の肉体を持つ天使を召喚する。

 その周囲には六枚の盾が浮遊している。この盾はそこそこの強度を持っている上に結構素早く

動いてガードしてくれる。俺もPVPで使ったことがあるからその性能は折り紙付きだ。


守衛能天使シールダーオーソリティ。この人たちを守ってくれ」

「……」


 体を震わせて返事をする守衛能天使シールダーオーソリティ

 やっぱり不安だ。


「あの、すみません」

「ん?」


 奴隷だった人の一人が話しかけてくる。

 若い男だ、身なりからして神父か?


「あなたが呼び出したのはもしかして天使じゃありませんか?」

「……ほう。よく分かったな」


 ジマリ村ではそのようなことを言ってくる人がいないから、天使の認知度は低いのかと思っていた。もしかしたらこっちの世界の天使もいるのだろうか? 仲間にできるんだったらぜひ引き込みたいな。


「や、やはり! 聖書に載っているお姿と似ているからそうではないのかと思ったのです! 天使を呼び出せるということはあなた様はそれより上位の存在……もしかして神ではないでしょうか!?」


 興奮した様子でまくし立てる神父。

 気づけば他の人たちも熱い視線を俺に向けていている。そんなに期待のこもった目をされたら「いや違います」とは言えない。


 ……嘘も方便という。彼らの心を奮い立たせるためにもしょうがないか。


「いかにも。私こそ天界より舞い降りし神だ。私が来たからにはもう大丈夫だ。お前たちの安全は保証された」

「お、おお! やはり神でしたか! なんとありがたい……!」


 サービスで背中から六枚の翼を生やすと、みんな跪いて俺を拝み始める。

 ううむ、教祖にでもなった気分だ。いや、今ガチでなっているのかもしれない。「やっぱ嘘です」という言葉が喉まで出かかるけどなんとか飲み込む。

 面倒くさいことにならなければいいけど。


「それではさっそく残りの盗賊を蹴散らし帰るとしよう。ついてくるがいい」

「はい! ダイル様!」


 俺は目を爛々と輝かせる元奴隷たちと共に洞窟の外を目指す。

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