第3話 アジト

 俺はジマリ村北東部の山岳地帯に向け、空を飛んでいた。

 眼下には鬱蒼とした森が広がっている。この中を歩くのは大変そうだ、飛行フライの魔法があってよかった。


「お、確かあそこら辺がシアの指摘した地点だったな……」


 目を向ける先に現れたのはゴツゴツとした山岳地帯。

 あそこには洞窟がいくつもあるらしい。滅多に人が来ないから隠れるのにピッタリらしい。他の村にちょっかいをかけるにもいい位置とも言っていた。


「さて、どうしたものか」


 正面から入り込んで全滅させるのはたやすい。

 しかしそれでは全員を始末できるかは分からない。相手は盗賊、紛うことなき『悪人』だ。


「やるなら徹底的に――――か」


 それが白銀騎士団の方針だ。

 悪名高いPK《プレイヤーキラー》ギルドを潰す時はいつもそうだった。


「傍から見たらどっちが悪人か分からないだなんて言われたもんだな」


 アジトを丸ごと燃やしたり、水没させたり、保管していたアイテムを全て没収したりと確かに滅茶苦茶やった。

 でも誓って悪質なプレイヤーしか狙わなかったし、貴重なアイテムはもとの保有者に極力返した。他人からは悪行に見えても、俺たちの正義は通った行動だった。


「久しぶりのギルド戦だ。張り切っていくとしよう。完全なる透明化パーフェクト・インビンシブル


 自らの身体に魔法をかけ、体を透明化させる。

 姿を変える擬態魔法にも色々あるけど、この『完全なる透明化パーフェクト・インビンシブル』はその中でもかなり上位に入る魔法だ。

 まず視認が完全に出来なくなる。

 下位魔法『透ける肉体スケルトン』だと完全に透明にはなれず、空間が歪んでいるのが見えてしまう。おまけに〈気配探知〉などのスキルでも簡単に見つかってしまう。


 反面『完全なる透明化パーフェクト・インビンシブル』は使用中あらゆる攻撃が出来ないという欠点こそあるものの、ほとんどの探知系魔法やスキルに引っかからない。

 まあ上位ギルドではそこらへんの対策も抜かりないけど、中位ギルドであれば怠っていることも多い。この魔法で侵入して情報収集することも多かった。


「正直このランクの魔法を使う必要はないと思うけど、やるなら徹底的にだ」


 透明化した状態で山岳地帯に降り立つ。

 そして地図を見ながらシアが示した地点に赴く。すると……


「やっぱり話のとおりだったな! 奴ら食料をたんまり貯め込んでやがった!」


 耳障りな声が聞こえてくる。

 声のする方に行くと、そこには汚い格好をした男たちが十名ほど酒を片手に騒いでいた。


「すごいな。シアの言ったとおりじゃないか」


 洞窟の前にテーブルを置き、彼らは宴を開いていた。きっとあの洞窟に盗んだ物をしまい込んでいるのだろう。

 近くには馬車が数台置かれている。あれで移動していたのか。上空から見ても分からなかったが、森の中には彼らが使う道が張り巡らされているみたいだな。


「潜入開始……する前に保険をかけておくか。召喚コール捕縛能天使バインダーオーソリティ


 召喚したのは全長二メートルほどの天使。

 天使騎士エンジェルナイトとは違い人型ではなく、幾何学的な水晶とそこから生えた何本もの白い鞭で体が構成されている。

 能天使は上から六番目、第六位の天使だ。当然一番下の第九位である天使騎士エンジェルナイトとは段違いの能力を持っている。

 俺が今回召喚した捕縛能天使バインダーオーソリティはその名の通り『捕縛』に特化した能力を持っている。当然体中に生えたムチは殴るためではなく縛り上げるためにある。


「いいか? 野盗が逃げ出したら全員捕まえるんだ。殺しちゃだめだぞ?」

「……」


 捕縛能天使バインダーオーソリティは俺の言葉に体を震わせて返事をする。

 ……本当に伝わってるのかこれ。不安だ。

 意思疎通の取れる天使って召喚出来ないものだろうか。また今度色々試してみよう。


「まあいいや。とにかく頼んだぞ」


 俺は捕縛能天使バインダーオーソリティにそう念を押して盗賊たちのもとに向かうのだった。

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