第2話 盗賊
「うう、痛い……」
急いで現場に行くと、そこでは村人が一人苦しそうに呻いていた。
駆け寄って見てみると、腹に大きな切り傷があった。これが原因か。
「今助ける。
緑色の光が傷口に吸い込まれ、みるみる内に傷が塞がる。
とはいえここはゲームと違う、体力が戻っても気力までは回復できない。すぐに動き回ることは不可能だろう。
「これで大丈夫。安静にしておけば動けるようになるだろう。一体何があったんだ?」
「じ、実は野盗が現れまして……」
俺の質問に村人の一人が答える。
「野盗?」
「はい。この近くを拠点にしている野盗がいるんです。幸か不幸か不作が続いているせいでここ最近は姿を表しませんでしたが、前はちょくちょく来ては食料を強奪していたんです」
「……そんな輩がいたのか」
「はい。どこで聞きつけたのか、うちの村が食料を蓄え始めているっていうのを耳にしたのでしょう。多分奴らは又来ると思います」
村人は暗い顔をする。
せっかく食糧難が解決する兆しが見えたら今度は盗賊だ。落ち込みもするだろう。
「そんな奴らがいるのに今まで国はなんとかしてくれなかったのか?」
ここジマリ村は、ガルマニア王国という国の領土内にあるとシアに聞いた。
当然税も納めているので、王国にはこの村の治安を維持する義務があるはずだ。
「王国にこの件は何度も話しています。しかし月に一、二回兵士が巡回してくれるくらいで……解決しません」
「小さな村に力は割けないってことか。虫唾が走るな」
その巡回というのも適当にブラついていてるだけだろう。
それほど税の取れない村一つ壊滅しても構わないとすら思っているのかもしれない。どこの世界も国は腐るものなんだな。
「……分かった。盗賊の件は私が解決しよう」
「ほ、本当ですか!? お願いしますダイル様!」
「ああ、任せるといい」
白銀騎士団の一員として、盗賊という明確な『悪』を見過ごすわけにはいかない。
俺はまず一度、村長であるガファスさんの家に向かうのだった。
◇ ◇ ◇
「なるほど、盗賊が……」
盗賊の話を聞いたガファスさんはそう言って重いため息をつく。
俺はテーブル越しに座っているガファスさんに言葉を付け足す。
「盗賊どもは食料を奪いアジトに逃げたようです。人手がなく全部は持ち帰れなかったようですが、裏を返せばまだ食料があることを向こうも分かっているということ。確実にまた来るでしょうね」
「
ガファスさんは悔しそうにテーブルを叩く。これまで散々苦しめられていたのだろう、その瞳には強い怒りの色が見える。
「ガファスさん。盗賊の件ですが……私に任せてもらえないでしょうか?」
「まさか戦うおつもりですか? 確かにダイル様は凄腕の魔法使いであらせられる。しかし相手はどんな卑怯な手も使う盗賊です。相手の数も多いですし流石に危険かと……」
「安心してください。私がお見せした力はまだほんの一部、賊に遅れはとりませんよ」
「……分かりました。ダイル様を信用いたします」
ガファスさんはそう言うと、その場に膝をつき俺に頭を下げる。
「よろしくお願いいたします。過去に奴らの凶刃で命を落とした者もいます。彼らの無念を晴らしてください」
声を震わしながらガファスさんは言う。
どうやら盗賊にはかなり苦い思いをさせられてきたみたいだ。
俺はガファスさんの肩を掴み、起こす。
「任せてください。私の目の黒いうちは『悪』をのざばらせませんよ」
◇ ◇ ◇
ガファスさんとの話を終え外に出ると、そこにはシアがいた。
「ダイル様。盗賊と戦われるのですか」
「よく分かったな。誰かに聞いたのか?」
「いえ。ダイル様ならそうすると信じておりました」
曇りなき目でシアは言う。
信用度と好感度がカンストしててちょっと怖い。
「先に言っておくが連れて行きはしないぞ。危険だし子どもには刺激的すぎるからな」
「分かってます。私が行っても邪魔になるだけですから。その代わり……これを」
シアは一枚の地図を手渡してくる。
それはこの村の周辺地図だった。何箇所かに丸いマークが書かれている、なんだこれは?
「私なりに盗賊が潜んでいると思われるところを丸しておきました。一番可能性が高いと思うのはここですね」
そう言ってシアは地図の一箇所を指す。
いやいや。ちょっと待ってくれ。
「なんで潜んでいる場所が分かるんだ」
「今まで盗賊が来た方向や襲われた村の情報を聞いて回ったんです。その情報とモンスターの分布図、通行の便などを考慮した結果そこに潜むのが一番合理的だと考えました」
「……本当にシアはただの村娘なのか?」
俺のいた世界にもこんな頭のいい十一歳はいなかったぞ?
「すみません。今の私にはこの程度のお手伝いしか出来ません……。しかしいつか成長して、もっとダイル様のお役に立てるようになりますので!」
「いや、既に十分シアは助けになってるよ。ありがとう」
そうやってシアの髪をくしゃりと撫でる。
するとシアはくすぐったそうに笑みを浮かべる。この顔だけ見たら年相応なんだけどな。
「そうだ。留守の間は召喚した兵士を使ってくれ。
空中に出現した魔法陣から、白い鎧の騎士が五体降臨する。
背中には二枚の翼。
「ダイル様。この方たちは……!?」
「私の配下の
俺はついでに
「私は留守にするから、お前たちでこの村を守ってくれ」
そう命令すると
うーむ、本当に任せて大丈夫だろうか。
戦力としては確かだけど、自分で考えて戦うっていうのは苦手そうだ。簡単に陽動とかに引っかかってしまいそうだな。
「そうだ、お前たちの指揮官はシアにしよう。彼女の言うことを聞け」
「ええっ!? 私ですか!?」
シアが大声で驚く。
「ダイル様! 今の言葉、本気ですか!?」
「ああ。こいつらは強いけど柔軟な対応は出来ない。そのフォローをしてやってほしい」
「そんな大役を任せていただけるのは光栄ですけど……私に出来るでしょうか?」
不安げな表情をするシア。
大人顔負けの頭脳を持つ彼女だけど、歳はまだ十一。戸惑って当然か。
だけどやっぱりこの役目に向いているのは彼女だと思う。
「聞けシア。お前は自分のことを過小評価しているが、その頭脳は素晴らしいものだ。この村で一番
「私が……いちばん」
シアの目が輝き出す。
どうやら心に響いたみたいだ。
「そうだ。お前が一番だ。私の判断は間違っているだろうか」
「……いえ、間違っていません。間違っていないと証明してみせます」
力強くシアは言い放つ。
その目にもう迷いはない。これなら任せて大丈夫そうだな。
「よし。じゃあ村は任せた。私はさっそくシアが目星をつけた場所に行くとしよう」
「分かりました。村はお任せください」
俺はシアと
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