第二章 行使される正義

第1話 召喚

 村の畑改良計画は順調に進み、一週間後には荒れ果てた畑が全て豊富な作物で埋め尽くされた。

 栽培しているのは七剣騎士の英雄譚セブンナイツ・オンラインでも人気の高かった野菜や果物ばかり。そのどれも栄養満点で、食べた村人たちはみんな元気いっぱいになった。


 ……明らかに普通の人間より筋力や魔力が上がっているけど、大丈夫だよな?

 能力値が上がる物ばかり栽培してしまったから少し不安だ。


 村の食糧事情を解決してから村人たち全員に崇められるようになった。

 今では村長よりも発言力があるくらいで、一部では村の名前をダイル村にしようという声まであるらしい。

 俺は別に崇められたい気持ちなんてないが……まあもう引くに引けないところまで来ている。彼らの期待には応えるつもりだ。


「さて、今日も色々検証するとしよう。召喚コール天使騎士エンジェルナイト


 魔法を発動すると、空中に魔法陣が現れ、そこから白い甲冑の騎士が舞い降りる。

 背中には一対の羽があり、手には剣と盾を持っている。


 これは自動で動くモンスターを生み出す召喚魔法だ。

 七剣騎士の英雄譚セブンナイツ・オンラインではありふれた魔法で、主にデコイとして使われていた。


 天使系の種族である俺は天使系のモンスターを召喚する事ができる。

 天使は九つの階級に分けられていて、天使騎士エンジェルナイトはその中でももっとも下のランク、第九位の『天使』に位置する。


 ちなみに俺の種族も人間から天使系に変えられていて、その階級は一番上の第一位『熾天使セラフィム』。ここまで上げるのは中々苦労した。


天使騎士エンジェルナイト、その場で回れ」


 そう命令すると天使騎士エンジェルナイトは無言でその場で一回転する。中々シュールな光景だ。


「……七剣騎士の英雄譚セブンナイツ・オンラインでは攻撃や守備、待機みたいなざっくりとした命令しかこなせなかったけど、こっちだと詳細な命令もくだせそうだな」


 天使騎士エンジェルナイトは最下級の天使。レベルも30程度しかない。

 だけどこっちの普通の村人は調べたところレベル換算で5程度。束になっても天使騎士エンジェルナイトに敵わない。十分な戦力といえるだろう。


 少しでも人手がほしい今は貴重な戦力だ。


天使騎士エンジェルナイトよ。これを持って畑を耕してくれるか?」

「……」


 天使騎士エンジェルナイトは無言でくわを受け取ると、もくもくと畑を耕し始める。

 こりゃあいい。力作業も任せることが出来るな。

 とはいえ考える頭はないから、誰かに指示はお願いしないといけないな。まあそれは村人にお願いするとしよう。


「……しかし召喚したモンスターはしばらくしたら消えるはずなんだけど、そんな様子は見えないな」


 天使騎士エンジェルナイトが働いている様子をしばらく眺めていたけど、彼は黙々と働き続けていて消える様子はない。まさか無尽蔵に動き続けることが出来るのか?


 そう思っていると突然天使騎士エンジェルナイトが働くのをやめ、その場に止まる。


「どうしたんだ?」


 近づき確認する。


「死んだって感じじゃないな。もしかして休んでいるのか?」


 試しに回復薬ポーション天使騎士エンジェルナイトに使用してみる。

 すると天使騎士エンジェルナイトはまた元気に動き出し、仕事に戻る。


「なるほどな。時間が来たら消える代わりに休憩するのか。空気中の魔力でも吸って回復してるのかな?」


 まだそこらへんは不透明だけどいいことを知れた。

 いちいち召喚し直す手間がないのは助かるな。検証してみてよかった。


「さて、次はどんな魔法を……」

「ダイル様! 少々よろしいでしょうか!?」


 突然シアがやってくる。

 かなり急いでいる様子だ。一体何があったんだろうか?


「どうしたシア」

「実は村の人が野盗に襲われて怪我を! お願いします、助けてください!」

「なんだって? すぐ行こう」


 実験を中断し、俺は村人のもとに向かうのだった。

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