第7話 農業改革
村人の男性に連れられ家に行くと、そこでは一人の女性がぐったりした様子で倒れていた。
顔は青く、かなり苦しそうだ。
俺は彼女のそばに屈み、様子を見る。
「ダイルさん、家内は死んでしまうのでしょうか!?」
「落ち着け。私がなんとかする」
俺に医学の知識なんてものはない。
だが
まあこれくらいゲーマーからしたら基礎教養だが。
「まずは症状を調べないとな。
魔法を発動させると女性の側に緑色の体力バーが出現する。
彼女の体力は既に残り一割を切っており、今も徐々に減っていっている。このままだと危険だ。
俺は次に体力バーの下に目を向ける。
そこにはドクロマークのアイコンが出ていた。このマークは毒状態を意味する。
「ご主人。奥さんは最近変わった物を食べませんでしたか?」
「変わった物、ですか? えーと……あ。そういえばなんか美味しそうなキノコを見つけたと言っていました」
「なるほど、それか……」
毒にも種類があるが、キノコによる毒なら魔法で簡単に治せるはずだ。
俺は回復魔法〈
更に減った体力を回復させるため、〈
「……うん。毒アイコンも消えたしこれで大丈夫だろう。顔色も良くなったし少ししたら意識も戻る。まだキノコがあるなら処分しておくように」
「あ、ありがとうございます!! ダイルさん……いえ、ダイル様がいて下さらなかったらどうなっていたか!」
男は泣きながら俺に感謝してくる。
やっぱりいいことをするのは気持ちがいいな。
「……しかし事態は深刻そうだな」
今回はなんとかなった。
しかし治療しただけではこの
この村の最大の問題。
それは食糧問題だ。
不作が続き農作物があまり採れてない上に、最近は獣を狩るのも上手くいっていないという。
この女性がよく知らないキノコを食べてしまったのも食糧が足りないからだろう。もし十分な食事を摂れているなら、よく知らないものをわざわざ食べたりはしない。
「なんとかする必要があるな」
この村には世話になってるし、俺は正義の味方『白銀騎士団』の一員だ。見過ごすことは出来ない。
城をなんとかするより先に、やることが出来たな。
◇ ◇ ◇
「こっちです!」
元気よく走るシアに連れられ、俺は村にある畑に足を運んだ。
そこでは何人かの村人たちが農作業をしていた。
「なるほど。これは深刻そうだな」
畑に生えている作物は、素人の俺が見ても分かるほどにどれもやせ細っていた。
農作業している人たちの顔も暗い。
「不作はいつから続いているんだ?」
「昨年からです。雨が降らない日が多く続いて……」
確かに俺が来てから一回も曇ったことすらない。この天気が続いているなら作物に強い影響が出ているだろう。
村には行商人も滅多にこないらしいので余所から食料を買うのも厳しそうだ。そもそもお金もそれほどないしな。
「さて、さっそくやるとしよう」
俺は
するとシアが不思議そうにそれを見る。
「ダイル様。その杖はなんでしょうか?」
「これはヤドリギの杖。自然を操る『
俺の
レベル10が上限の
つまり今の状態ならレベル7相当の緑魔法を使うことが出来る。
他の手段を使えばもっと上の魔法を使うことも出来るけど、今はこれで事足りる。
俺は農作業をしている人に近づき、話しかける。
「失礼、この使われてない畑の一画を借りてもいいだろうか?」
「え? 構いませんが……そこは特に土壌が悪くてロクに育たないと思いますよ」
「それで構いません」
了承を得た俺は、その畑の前に行く。
軽く土を触ってみたけど、水気がなさすぎて土というより少し砂っぽくなってしまっている。栄養がないのか虫も見かけない。これじゃ確かに野菜も育たなさそうだ。
「ダイル様、一体何をなさるのですか」
「まあ見てるといいシア。緑魔法、
杖を地面に突き刺し、魔法を発動する。
すると一瞬で枯れ果てていた大地が栄養満点の肥沃な大地に変貌する。
いい素材で作られる料理を食べると
これで準備は整った。後は白銀城から持ってきた種をまいて、と。
「緑魔法、過剰なる
魔法を発動した次の瞬間、まいた種から一斉に芽が出て畑が一面緑で埋め尽くされる。
俺がまいたのは食べるとHPの最大値が上昇するトマト「
「わ、わ! 植物が生えました! これもダイル様がやれたのですか! すごすぎます!」
シアは瞳を輝かせながら騒ぐ。
農作業をしていた村人たちも、なんだなんだと近くに来る。
俺はトマトを一つちぎるとシアに渡す。
「ちゃんと出来てるか食べてみてもらっていいか?」
「は、はい。いただきます」
シアは大きな口を開けてトマトをかじる。
豪快でいい食べっぷりだ。
「もぐもぐ……ごくん。こ、これすごいおいしいですっ! こんなおいしいお野菜初めて食べました!」
「そうか、それはよかった。みなさんもぜひ食べてください」
そう言うと眺めていた村人たちがみなトマトに手を伸ばし、バクバクと食べ始める。
みんな腹が減っていたんんだろう。すごい勢いだ。
「なんだこりゃ! うますぎる!」
「い、生き返る……!」
「一瞬でこんな野菜が出来るなんて奇跡だ……!」
その美味しさにみな喜び、笑顔になる。
中には泣き崩れている者までいる。よほど空腹がつらかったんだろう
「さて、他の畑も順番に改良するとして……雨も降らせないとな」
天候を雪や嵐にするには
「
杖を振り上げ、魔法を発動する。
すると上空にゆっくりと雲がたまっていき、やがてぽつぽつと雨が降り出す。
「
気づけば村人たちが唖然とした表情で俺のことを見ていた。
なんだなんだ。怖いぞ。
「こ、この雨はダイル様が降らせたのでしょうか……?」
「ああ、そうだ」
「す、すすす凄すぎます! ダイル様は天気すら支配する力をお持ちなのですね! まるで神様みたいです!」
興奮するシア。
気づけば村人たちはみんな俺に跪いて手を合わせている。本当に神様扱いされてしまっている。まあ低位の魔法すら使える人間がいないのだから、こんな大規模な魔法見たら神業だと思われても無理はないか。
こりゃ今まで以上に口調や振る舞いは気をつけないといけないな。
彼らにがっかりされてしまう。
「それでは他の畑も改良する。しかし変えた後の管理などはあなた達にやっていただきたい。頼めるかな」
「はい! もちろんでございますダイル様!」
キラキラした目で村人が返事をする。
はあ。シアが増えた気分だ。
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