第6話 村での生活
ジマリ村に滞在してから早いもので三日の時が経った。
もちろんタダで飲み食いするわけにはいかない。森で獣を狩ったり、村の人が困っていることを魔法で解決したりして過ごしていた。
そんなことをしている内に……すっかり俺は村の人に受け入れられていた。
「ダイル様! この前はありがとうございます!」
「先ほど新鮮な野菜が採れたんです! よろしければ少し貰ってください!」
シアと共に歩いていると村人たちから声をかけられる。
なんだかむず痒いな。
「さすがダイル様! すっかり人気者ですね!」
興奮した様子でシアが言う。
「村の人たちもようやくダイル様の素晴らしさが分かったみたいですね!」
「私はそんなに凄い者じゃあないぞシア」
「くう、そんな謙虚なところも素晴らしいです!」
「……それはどうも」
相変わらずシアには懐かれている。
数日もすれば熱も冷めるかと思ったんだけど、この熱は長引きそうだな。
「ただいまー」
「お邪魔する」
俺はシアと共に彼女の家に入る。
扉に頭がぶつかってしまいそうになるが、屈んでそれを回避する。
この体だと普通の人間の家は窮屈だな。
「これはこれは。いらっしゃいませダイル様。今お茶を用意しますね」
家に入るとシアの母親、アンナさんが出迎えてくれる。
シアの父親は数年前に亡くなってしまったらしく、今はシアとアンナさんの
なので彼女のシアに対する愛情は深く、俺がシアを助けたことを知った時は頭が地面にめり込むんじゃないかってほどお礼を言われたもんだ。
「ダイル様。今日は何を知りたいのですか?」
テーブルに着くと、シアが自室からたくさん本を持ってきて俺の前に置く。
最近はシアにこの世界の色々なことを教わっている。
地理や歴史、風土など知らなきゃいけないことはたくさんある。俺はこの世界の文字が読めないので通訳してくれるシアの存在は非常に助かる。
「それにしてもこの歳で文字が読めるとは素晴らしい。シアは大物になりますよ」
「ふふ、ありがとうございます」
お茶を置いてくれたアンナさんにそう言うと、彼女は嬉しそうに微笑む。
さっきのおべっかでもなんでもなく、歴とした事実だ。この村で文字が読めるのは数人しかいない。栄えている街でも字が読める人はそれほど多くないらしい。
それなのにシアはこの若さで読み書きを覚えた。これは才能だろう。
「もう少ししたらこの子には王都の学園に行ってもらおうと思っているんです。この村にいたらロクに勉強出来ませんですからね」
「それは素晴らしい。きっとよい経験になるでしょう」
不登校だった俺が言えた義理ではないが、勉強はした方がいい。
じゃないと俺みたいなダメ人間になっちゃうからな。
「ダイル様! お母さんとばかり話さないでください!」
「ああすまない。そうだな……今日は私の城をどうしたら直せるかを一緒に考えてもらっていいか?」
この世界のことは結構勉強したが、まだ白銀城を直す目処は立っていない。
内部機関はほぼ動かなくなっており、外壁もボロボロ。あのままじゃ可哀想だ、早く直してやりたい。
「お城を直す方法ですか。王都に行けば建築家の人はたくさんいると思いますけど、その人たちにあのお城が直せるとは思いません」
「そうだな。あの城は普通の城とはわけが違う」
「はい。それに素材の問題もあります。魔法効果のある建物にはミスリルなどの希少金属を多く使うと本で読んだことがあります。それを調達する手段も考えなければいけませんね」
……やはりシアの頭脳は他の村人たちより抜きん出ている。
俺の仲間になってくれれば優秀な
「希少金属か。確かにそれはいくらあっても困らないな。この村の近くに鉱山みたいなものはあるのだろうか?」
「近くに小さな鉱山はありますが、そこでは上等な鉱石は採掘できません。あるとすれば……ここ。この国の南方にある山脈、ここであれば採れるかと思います」
「ほう……」
地図を広げたシアは山が連なった箇所を指し示す。
結構距離があるけど、魔法を使えばそう時間はかからないだろう。
「この山脈には鉄を扱う小人、ドワーフ族が住んでいると聞きます。彼らを仲間にできればお城を直すのに大きな戦力になると思います」
「……素晴らしい。非の打ち所がない提案だ。やはりシアに相談して正解だったよ」
そう褒めるとシアは顔を真っ赤にして「えへへ、ありがとうございます」と照れる。
こう言う反応は年相応だな。
「どうしますか? すぐにでも山脈に向かいますか?」
「いや、もう少し綿密に作戦を立ててからにしよう。急いでも良いことはない。作戦が成功するかどうかは事前の準備にかかっている」
「なるほど……さすがダイル様! 聡明です!」
何をやっても好感度が上がってしまう。
選択肢にハズレのないギャルゲーでもやっている気分だ。
などと考えていると突然玄関の扉がバン! と勢いよく開き、一人の村人が入ってくる。
「ダイルさん! 今すぐ来ていただけませんか!」
「ん?」
その村人はかなり慌てた様子だ。
俺は席を立ち、彼に近づく。
「どうしたんだ?」
「か、家内が急に倒れてしまったんです! 苦しくて今にも死にそうで……!」
「分かった。すぐ向かうから落ち着け」
取り乱す彼を宥めた俺は、シアに「少し待っててくれ」と言い、彼の家に向かうのだった。
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