第4話 ジマリ村

 村へ向かう道中、俺はシアから様々なことを聞いた。


 今いるこの森はエウリシア大陸北部に位置する『ユルドの森』というらしい。

 森の北にはノルド海という海が広がっている。そこに落ちたらさすがに死んでいただろう。頑張って陸地まで飛んでくれた白銀城には感謝してもしきれない。


 そして肝心のここがゲームの世界かどうかの問題だが……ここはゲームの世界じゃない、という説が濃厚になった。


 まず俺は自分の腕を軽く剣で切って見た。

 すると鋭い痛みと共に赤い血が流れたのだ。おまけに空腹を感じたので木の実を食べたところ腹が満たされる感覚があった。そんなの俺の時代のゲームで再現出来ない。


 つまりここは七剣騎士の英雄譚セブンナイツ・オンラインによく似たファンタジー世界。俺はそこにゲームキャラの姿で迷い込んだことになる。

 ありえないことだけど、今はそう信じる他ない。

 まあ現実世界の体で放り出されるよりはいい。あっちの肉体じゃモンスターに殺されて終わりだからな。


「見えました! あれがジマリ村です!」


 肩に乗っているシアが声を上げる。

 俺のアバターは二メートルを超す長身なのでシアの目線はかなり高い。


「ほう、あれか」


 現れたのはいたって少しさびれた田舎村だった。

 人口は百人程度だろうか。

 

 村人たちは農作業など仕事をしていたが、俺を見るとギョッとして物陰に隠れる。

 まあ急に鎧姿の大男が現れたら驚くよな。攻撃されないだけマシだ。


 堂々と正面から村の中に入ると、三人の大人が俺を出迎えた。

 真ん中にいるのは髭を生やした老人。その老人の脇を固めるように男が二人、手に斧を持って立っている。


 彼らの前で立ち止まると、老人が口を開く。


「私は村長のガファスと申します。この村にどのような御用ですかな、騎士どの」


 村長は丁寧な口調だけど、警戒している様子だ。

 後ろの男たちなんかは斧を持つ手が震えている。相当怖がらせてしまっているみたいだ。


「えーと……」

「ガファスさん! 私この方に助けていただいたんです!」


 なんと説明したものかと思っていると、シアが俺の肩から飛び降りてそう説明する。

 鎧と同化していてシアがいる気づかなかったのか、村人たちは驚く。


「シア!? どうしてお主が!?」

「実は……」


 シアが俺と出会った経緯を尊重であるガファスさんに話してくれる。

 ちなみに現在迷彩ステルス化している城の場所は他の人に話さないでくれと頼んである。

 あれの位置を他人に知られるのはリスキーだと感じたからだ。エネルギー補給の目処が立って、防衛システムを入れることが出来るようになるまではなるべく隠しておきたい。


 などと考えている間にシアは粗方の説明を終える。

 その頃には村人二人は手に持った斧を下に下げていた。敵意を向けられるのは気持ちがいいものじゃないから良かった。


「……失礼しましたダイル殿。知らぬとはいえ、恩人に失礼な態度を取ってしまいました」

「いえ、構いませんよ。このような見た目なのですから怖がられて当然です」

「おお……なんと慈悲深い。その寛大なお心に、心よりの感謝を」


 そう言ってガファスさんsと二人の村人は頭を下げる。

 ふう、なんとかなってよかった。一人じゃこんなパーフェクトコミュニケーションを取れはしなかっただろうな、シアには感謝しないと。


「疲れておいででしょう。今日は村長わたしの家に泊まってくだされ。豊かではない村ゆえ、大きなおもてなしは出来ませんが……」

「ありがとうございます。寝るスペースさえいただければ十分です」


 そうガファスさんとやり取りしていると、シアが割り込んでくる。


「ダイル様! 私の家に泊まらないのですか!?」

「これシア、お主の家ではダイル殿には手狭だろう」

「むうー!」


 ガファスさんが諌めるが、シアは不満げだ。

 まさかシアにここまで懐かれているなんて思わなかった。


「シア。後で行くからそう村長さんを困らせるんじゃない」

「……分かりました」


 納得してくれたシアの頭をポンポンと叩いて慰めた俺は、ガファスさんと共に彼の家に向かうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る