第3話 白銀城

 森の中を駆け抜けること二分。

 俺はシアが言っていた「大きなお城」があるという場所にたどり着く。


「これは……!」


 目の前にあるのは間違いなく白銀城だった。

 墜落したせいであちこち壊れてしまっているが、見間違うはずがない。白銀城もこの世界に来ていたんだ……!


「ふふふ……はははっ!」


 思わず大きな声で笑ってしまう。

 この世界に一人きり、そう思っていた。しかし俺には最後にして最強の味方がついてきてくれていた。これ以上心強いことはない。


「あの、どうかされ……」

「ありがとうシア! この城を教えてくれて! なんと感謝していいか!」

「うみゅ、どういたしまし、ゆれ」


 肩をぐわんぐわん揺らしながらシアに礼を言う。

 もし彼女がいなければ白銀城があることに気が付かなかっただろう。


「しかし派手に壊れてしまっているな。飛行するのはしばらく無理そうだ。


 白銀城は横転してしまっている。これではまっすぐに起こすのも難しい。

 ひとまず俺は白銀城の一部に触り、アジト管理用の操作画面コンソールを出す。


「……よし。操作画面コンソールが出るってことは完全に壊れたわけじゃなかったな。エネルギーは……当然だけどほとんど枯渇してるか。倉庫の素材や武器はまるっと残ってるな、これは嬉しい。ただほとんどの設備や装置は壊滅的、これを直すのには骨が折れそうだな」

「あ、あの……」


 ぶつぶつと考え事をしていると、シアが申し訳なさそうに話しかけてくる。

 おっと、ついつい夢中になってしまった。


「どうした?」

「このすごいお城。もしかして騎士様のものなのでしょうか?」

「えーと……」


 正確には、違う。

 この白銀城はギルドメンバーみんなの物だ。


 しかしその仲間たちはみんないなくなってしまった。この世界はもちろん、七剣騎士の英雄譚セブンナイツ・オンラインにももういない。だったら……


「まあそんなところ……かな」

「やっぱりそうだったのですね!」


 シアはキラキラした目で俺のことを見てくる。

 尊敬の眼差しを向けられるなんて初めての経験だ。悪くない気持ちだ。


「あ、そうでした。よろしければお名前を教えていただいてもよろしいでしょうか?」

「そういえばまだ名乗ってなかったな。私の名前は『王ダイル』だ」

「王ダイル様……やはりダイル様は王様だったのですね!」

「あ、いや、ちが……」

「王であらせられ方が私みたいな一村娘を助けてくださるなんて! なんとお優しいのでしょう……」


 駄目だ。完全に訂正するタイミングを失ってしまった。

 それに今更訂正したらシアをガッカリさせてしまう。それは気乗りしなかった。


「ダイル様はどちらからいらしたのですか?」

「え? ああ……遠くだよ。遠くから来た」

「そうでしたか。となるとこのエウリシア大陸の外、違う大陸からいらしたのですか?」


 どうやらここはエウリシア大陸というらしい。

 そんな名前現実でも七剣騎士の英雄譚セブンナイツ・オンラインでも聞いたことがない。


 とにかく今は情報を集めよう。今度のことはそれからだ。


「じゃあシア。次は村まで案内してもらえるか? 実はここら辺のことをあまり知らなくてね。色々教えてくれると助かる」

「任せてください! すごいおもてなしは出来ませんが……精一杯頑張ります!」


 ふんす、とシアは意気込む。

 この世界に来て早々彼女みたいな協力的な人と仲良くなれたのは僥倖だ。この縁は大切にしないとな。


「ところでお城はこのままでよろしいのですか?」

「ああ。動かすことは出来ないからこのままだな。だが見つからないようにはしておこう」


 俺は操作画面コンソールを操作し『迷彩ステルス機能』をオンにする。

 すると白銀城は空気に溶け込み、透明になる。良かった、この機能は壊れてなかったか。


「わ! お城が消えました! あれ? でも触るとここにある……。これも魔法ですか?」

「ああ、そんなところだ」

「はあ……魔法って凄いですね」


 感動したように言うシア。

 この世界にも魔法は存在するみたいだけど、あまり見る機会はないようだ。


「さて、そろそろ行くとするか。道案内は頼んだぞ」

「はい! こちらです!」


 こうして俺の未知の世界を巡る冒険は幕を開けるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る