第二章 海を超えて

第五話 草原の出会い

 穏やかな風が、草木の香りと少しの雨の匂いを乗せ、遠くの山から吹いてくる。


 すぐには雨は降らなそうだ。今日中にフィビュラに着けるだろうか?すると。


 「ん?何だあれ?」


 目を凝らし林の方を見てみると。白い影がちらりと見えた。


 「人が倒れている…近くに何かいるのか?!」


 辺りを見渡すも怪しい気配どころか鳥一匹見当たらない。


 「この子、よく見ると、、、」

 

 白くて長い髪は綺麗に後ろで結われていて、靴はかなり汚れているが、服を見ても襲われた形跡はない。旅人にしては荷物がないが…疑問に思っていると。


 「んっ、んんっ。なにか、たべ、ものを、、、」

 

 「食べ物?!ちょっと待って!」


 袋からパンを取り出して渡す。


 「ありが、とう………。」


 パンを食べるにつれてだんだんと生気を取り戻していく。


 「あにょ、おみずもらへまひゅか?」


 「どうぞ………。」

 

 4本のパンを食べ終わった頃だろうか。


 「ふうっ、有難うございました!私、狼から逃げ続けていたら倒れてしまって。あっ!このお礼は必ずさせて頂きます。」


 「それはありがたいけど、、、その狼ってやけに身軽じゃなかった?」


 「あっ、はいそうです。やけに強くて数も多いし、、、そういえば自己紹介してませんでしたね。」


 女は立ち上がり服の汚れをはたくと言った。


 「私の名前はルネ。なんやかんやと旅をしてます。」


 「俺の名前はトラン。よろしく。」


 「こちらこそよろしくお願いします!ところでどこに向かってるんです?行き先も無いですしご一緒しても、、、」


 1人で旅するのもつまらない。それにあの狼がまだいるのなら1人よりも安全なはずだ。


 「ならフィビュラの町までですけど一緒にどうです?」

 

 「はい!お願いします。なら北の方向ですね!」


 「いや、東だけど、、、」


 どうやら割と方向音痴のようだ。荷物を整え歩き出そうとすると。


 「あれっ!?ないっ?!」


 一体どうしたのだろう。荷物があたりにないということは。


 「私の剣が無いんです。何か知りませんか?どうしよう、、、」


 「大事な物なんですね。探してから行きましょう。」


 「ありがとうございます!ただどっちから来たか分からないので、、、」


 するとなにやら足音が聞こえてきた。


 「へっへっへ、弱そうなのが2人いるな。おまえら!荷物置いてどっか行け!」


 獣の皮でできた服を纏い、やけに洒落た剣を持った男が現れた。


 「あっ!私の剣!」

 

 「お前の?わりぃがこれは俺がさっき拾ったもんだ。返して欲しけりゃ力づくでな!」


 「ならわかりました!回転spin!」


 何とルネの手から旋風のようなものが飛び出した!

 

 「ぐわっ!おのれぇ!」


 何と手に持った剣をこちらに向かって投げてきた!


 「危ない!製作makeシールド!」


 「ちいっ!何なんだお前ら!?覚えてやがれ!!」

 

 盗賊は意外と素早く逃げ去っていった。なぜこちらの目的の剣を投げてしまったのだろうか?


 「なんか…あっさりしてましたね……」


 ルネは飛んできた剣を拾い、タオルで拭きながら言った。


 「あっ、ありがとうございます!あと!もしかして私と同じように変な力使えるんですか?」


 「うん、びっくりしたよ。まさか君も使えるなんて!」


 村の中では今まで会ったことはなかった。一体異能文字の使い手はどれぐらいいるのだろうか?


 「せっかくなんで私の力、教えますね。私の力は回転spinです。この力は小さな竜巻のような回転力を与えることができるんです!」


 そう言うとルネは目を閉じて唱えた。


 「回転spin旋転まわれ剣よ!」


 先程の小さな竜巻が、剣を包み込んだ。


 「この剣、私の家に代々伝わるものなんです。本当ならもっと色々出来るんですけど、私の力じゃ足りなくて……まあ、それはそれとして行きましょう!フィビュラの町まで!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「くそっ!何だったんだあのガキども!せっかくの宝を捨てちまったじゃねえか!」


 盗賊が悪態を吐きながら森を進んでいると。


 「おお?なんか弱そうなのがいるじゃねえか。食ってやろうか!」


 「ひっ!狼!しゃべった!今日厄日か?!」


 体が大きく、黒い狼が穏やかに、しかし、とてつもない威圧感を放ちながら現れた。

 

 「ん?おまえ、あのガキの臭いがするな。ちょうどいい、これやろう。」


 狼が首を振ると石板が落ちてきた。


 「ひいっ!せ、せきばん!?」


 「これやるからあのガキ殺してこい。出来なきゃ殺す。」

 

 「は、はい!わかりました!」


 盗賊は死に物狂いで走り去っていった。

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