第二話 前半 成人の儀

 村から少し離れた林の中に幾つかの墓がある。


 「母さん。行ってくるよ。ペンダントありがとう。」


 母の好きだったスズランが美しい音色を響かせるかのようになびいている。


 「では今より成人の儀をはじめる!」


 壇上から村長の低い声が響く。


 「成人の儀とは、かつてこの地に現れた英雄様が時の長に伝え、今このときまで語り継がれた儀式である。内容は知っていると思うが、大きな鐘を鳴らし、祈りを捧げ、戻ってくれば儀式は完了だ。」


 村長が壇上から降りてきて語りかけてくる。


 「よいか、今回の儀式は約10年ぶりだ、しかも人数は2人と少ないが、ディード、トラン、2人とも頑張るのだぞ。」

 

 「分かりました村長。」


 自分とディードがそう答える。ディードは幼馴染の青年で、自分より体格がよく、木こりの家系なので斧を使うのが得意である。


 「では行くのだ2人とも!儀式を完遂してくるのだぞ!」


 「はっ!」


 暫く進んでいくと儀式の笛の音が聞こえてきた。この音は洞窟の中で響き、もどり道を教えるものらしい。


 「さっ、行こうぜトラン!名誉ある儀式なんだろ、バッチリ決めてこようぜ!」


 「そうだね、ディード!」


 洞窟の入り口は広く、辺りには草が生い茂り、蔦が垂れていた。中は薄暗く、軽く風が吹いて来ている。


 「薄気味悪いな、松明つけるぞ。」


 ディードは火を付けようとするがなかなか付かない。もしや、、、


 「もしかして、、、松明外に置いておいた?」


 ディードに冷や汗が滲んでいる、ディードの家の近くはぬかるみが多くまだ乾いていなかったのだろう。


 「すまねぇ、、、」


 「いや大丈夫だよ。ん?」


 手元を見るとなんとあの手袋が光っている。こんな隠し機能付いてたのか。けどこれは好都合。


 「これで照らしながら進もう。」


 カシャカシャと剣を揺らして、苔が付いた岩場を滑らないように進んでいく。洞窟の側面には何か壁画のようなものや、暗くて見えないが文字のようなものが描かれている。


 「そういやトラン。お前昔から古文書とか読めるよな。」

 

 「うん。なんか小さい時から読めるんだ。きっと母さんが家で古文書読んでいたから分かるんだと思う。」

 

 「お前の母さん言語学者だったな。珍しかったよな、こんな田舎の村によ。」


 確かになんでわざわざここで研究していたのだろう。言語学者は数も少なく、大きな国の直属のが多いはずなのに。


 ペンダントが腕に触れてふと思い出した。


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 「トラン。知ってる?言葉には力があるの。」


 「ちから?」


 「そう。言葉はね、人を動かす力があるの。けれど気をつけて。悪い使い方をすれば言葉はとても危険なの。」


 母さんは頭を撫でながら言った。


 「いつの日かあなたの言葉は必ず誰かの助けになるわ。」


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 そういえばあの時、他にも何か言っていたような?考えを巡らせているとディードの声が聞こえる。


 「おいトラン!大変だ!」


 ディードが急いでこちらに向かってくる。


 「どうしたの?ディード?」


 「それがな、鐘が砕けてんだ!」


 ディードがそう言った瞬間岩が崩れる音が響く。


 「グオォォォォォッッ!!!」


 暗い洞窟ではハッキリとは見えないが、恐らく今岩を砕いたであろう巨大な爪、そして虎のような影に見えるがどう見てもその数倍はあるだろう。


 「やべぇ!オゥラァッッ!」

 

 ディードの斧の一振りはしっかりと魔獣の胴を抉ったと思われた。しかし、、、


 「グルルルルッッ!」


 「おいおい効いてないってのかぁ?!」


 ディードの斧が効かないのなら自分の剣では効果がないだろう。


 「一旦逃げよう!俺たちでは勝てない!」


 距離をとっても魔獣は追いかけてこない。すると。


 「グウゥゥッッヴァッ!!」


 魔獣の口から火炎球が飛んでくる。しかし外れた、どうやらさっきの一撃はしっかりと効いていたようだ。


 「危なかったな、けどこの調子なら逃げ切れんじゃねぇか?」


 「いや、どうだろう、、、」


 先の火炎球は洞窟の天板を砕き、道が閉じてしまっていた。振り返ると魔獣は徐々に近づいて来ている。


 すると突然ペンダントが光り出した!


 「これは、、、!」


 ペンダントの光、そして火炎球の炎により壁画の内容が、そして文字が、ハッキリと見えた。


 「おいトラン!どうした!」


 壁画の文字はなんとも奇妙な力を放っている。そしてふと思いだす。


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 「母さんはここにある昔の言葉を探しに来たの。」


 「じゃあそれもちからがあるの?」


 「そうね、強い力がね。」


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 「製作make!!」


 途端に手元に何かが作られる。握りやすい柄、その先に付く横向きの円柱形。


 「これは、、、ハンマー?」


 「おい、、、今何が起きた?」


 「って、それどころじゃない!!これがあれば!」


 リーサから貰った手袋の電源を入れる、そしてハンマーに力を込め。


 「いっけぇぇぇっっ!!」


 手袋が光を放ちハンマーが岩壁を砕いた。遠くに光が見える。


 「よし!これで逃れる!」

 

 「いくぞ!!」


 

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