希望を求めて切り裂いてⅢ

「さて、自分を知れって言われたけど。俺にはさっぱりだな」

 カウンターに頬杖をついて、真はそう愚痴った。


「うーん。真さん、自身の生い立ちは把握してますの?」

「そりゃまぁ、遥たちに語った通り」


 幼馴染の篝は当然として、フォシスも遥も真から生い立ちの事は聞いている。自身が捨てられ、ショーンに拾われ、今を生きている事を。


「子供の頃から一緒にいるボクとしては、今更なにをって感じなんだけどなぁ。んー、あ」

 そこで篝は閃いたように手を打った。


「真を知る。フォーゼスになればいんじゃない? ほら、変身してる間はボクら同じ存在になるし、真自身が気づけない真の事は、真になっているボクが気づくかもだし」

「あー、確かに。俺自身が気づけない事は俺になっている篝たちが……言葉にしてるとややこしい――フォーゼス?」


 篝の提案に乗って変身する流れだったが、真は握ったペンダントを見下ろしてふと呟いた。


「俺がフォーゼスになる時、このペンダントが鍵になる。このペンダントは、捨てられていた時、傍にあった……両親の手掛かり」


 そこで、カウンターの奥にて金塊を磨いているショーンを見た。

「俺が知ってる自分の事。その生い立ちは全部、ショーンさんに聞いたモノ」


 真の瞳が揺れる。期待と不安の色が混ざり合っていた。

「もしかしてショーンさんは、隠してる事……言ってない事、あるんじゃないの?」

 ショーンは金塊を磨いていた手を止め、そして天井を見上げた。


「そう……だね。確かに、真に言っていない事はあるよ。例えば、私の本名や過去の事……そのペンダントが少々特殊なモノだってこと」


「どういう、こと」

 色々隠されていた事にショックを受け、枯れたような声を出す真に対し、ショーンは諦めたように深く息を吐いた。


「真が変身……フォーゼスとやらになった事を聞いて、いずれ話す事になるだろうとは思ったさ」

 立ち上がり、ショーンは真の正面に来て言った。


「そのペンダントは、真――キミの親の形見なんだ」


 一瞬何を言っているのか分からなかった。ショーンと真、その間にあるカウンターは二人の距離を離すように広くなっていくような錯覚があった。


「形見って、もういないってこと?」

「……そうだよ」


 真の夢は、ショーンのように誰かを助けながら世界を旅する。以前、そう言った。

 だが、その裏には〝両親を探す〟という誰にも言っていない小さな目標もあった。別に会って話したいとか、恨み言をぶつけるとか、そんな事は一切ない。


 ただ、自分の両親がどんな人なのか。ただ子供として、ありふれた好奇心があった。

 だから、真にとってペンダントは手掛かりなのだ。

 しかし、ショーンによってもたらされた事実は、真に予想以上のショックを与えた。


「どうして……知ってるんだ」

 そう聞くと、ショーンは一瞬口籠もるが、やがて答えた。


「――私の前で、死んだからだよ」

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