ワイルドな淑女はカッケーですわ!《遥》

 メタモル・ガンマンを撃破して一週間が経った。山荷の本社が襲撃された事についてのゴタゴタに追われているせいで、遥はいまだ登校してこない。真も最後に会ったのは変身解除の後、普通に出口から笑顔で見送られた時だった。


 クラスでも、転校初日に不幸に見舞われた遥を心配している空気が流れており、真が教室に入った時『なんだお前か』という、期待を裏切ったような目をぶつけられた。

 あと十分でホームルームが始まる。今日も来ないのかと、クラスメイトは落胆した。


 その時、教室の扉が開かれた。真の隣の席以外は既に着席している。担任が来るにも少し時間が早い。つまり、入ってきた生徒は、


「おはようございますですの」


 ドッ、と教室が湧いた。遥が顔を見せた途端、花に群がる蜂のように男子が動き出す。が、その前に女子が恐るべき速度で遥を囲み防波堤となった。

 心配や好奇心などの質問を交わしながら、遥は自分の席に向かう。


 隣に来た遥に小さく手を挙げ、挨拶した。無事という事は分かっていたが、こうして顔を合わせると安心するものがあった。


「真さん。心配をおかけしましたわ」

「いや、色々と忙しかったんだろ。それで、アレはどうなったんだ?」


 真が言う〝アレ〟とは、遥の社長引き継ぎの件。帰る際にチラッと聞いたが、なにやら社長を継ぐ継がないの話を父親としていた。

 真の質問に、遥はフッと口角を上げて一枚の紙を取りだした。


「継ぐわけありませんわ。わたくしは自由にやらせてもらうと、あの時決めたんです。お父様はどうしても山荷の家系で社長を継いで欲しいと言ってましたが……別にそれはわたくし自身じゃなくても可能ですしね」

 最後あたりボソッと呟いた声の意味が分からず、首を傾げた。そして遥が出した紙を見ると、角度で見えにくいが『……届け』と書いてあった。


「おっとこちらは婚い――いえなんでもありません、間違えましたわ。こっちですの」

 遥は慌てて紙をしまうと、別の紙を取りだした。


「お父様は許可してくれましたの。今までの事を謝罪され、もう好きに生きてもいいと」


 取りだしたのは、入部届。彼女の晴れ晴れした表情を見るに、問題なく射撃部へ入る事になるのだろう。活躍する姿が目に浮かび、真もつられて微笑んだ。


「こちらの件は、まだ完全に認められていませんが、真さんなら許してくれるでしょうし、時間の問題ですわ。現に、お友達ならギリという言質をとりましたしね」

 収納したもう一枚の紙を見てニヤけた遥はそう言うが、真はなんの事か分からず聞こうとする。

 だが、その口は指でそっと塞がれた。


「そのためにも、今日からわたくしは積極的に参ります。ワイルドでカッケー淑女レディに、見惚れなさいませ」


 終いにウィンクをされ、体が硬直した。すぐハッとなって辺りを見渡すと。


 そこには醜い男の怨嗟の呻きが漂い、今にも呪われそうな空間が出来上がっていた。女子は止める事をせず、黄色い声を上げるだけ。


 既に担任が来ており、ホームルームの開始時間一分を過ぎていた。


「おー、やっと気付いたか。甘い空気も程々になー」


 そう担任が言った。致死量の猛毒で一杯になっているこの教室の中、何処に甘い空間などあるんだと、真は心の中で突っ込んだ。

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