ワイルドな淑女はカッケーですわ!Ⅳ

「ただいまー。って、どうしたんだフォシス」


 帰宅すると、ソファ席でぐったりしているフォシスを発見した。真の声に気付いた彼女は、寝そべっていた体を重々しく動かしてテーブルにベチャッと頬をつけた。


「おぉーお帰りなのじゃぁ。いやなに、今日は来客が多くての。妾ちょー頑張った、という訳じゃ。ヤマッター? というのでアスピラシオンが少し話題になった影響じゃと。まったく、何処の誰かは知らんが、妾をあまり働かせないでほしいのぉ。そのヤマッターという奴を見つけたら労働の苦しさを味合わせてやるのじゃ」

「ヤマッターは人じゃないから諦めろよ」


 グチグチと言いながらストローでメロンソーダをチューチュー吸っているフォシス。それに対しやれやれ、とショーンが肩を竦めながら奥から出てきた。


「繁盛するのは良いことだよ。フォシスくん」


 ギクッとなった彼女は自身の愚痴が聞かれていた事に汗を流すが、ショーンに怒った様子はなく、小さな箱をフォシスに手渡した。

「んむ? マスター、なんじゃこれ」

「開けてごらん」


 フォシスがおっかなびっくりといった様子で箱を開けていく。真も一体なんだろうかと、いつものカウンター席に座って眺める。


「のじゃ? これは、アレか。マコトが持っている端末か」

 ショーンがフォシスにあげたのは、スマホ。真と同じ機種で色違いのシルバーカラーだった。


「午前中はフォシスくん一人に任せても大丈夫なくらい、立派に働いてくれてるからね。だから、プレゼントだよ。それに生活するうえで必要だと思うし」

「ま、ますたー。はっ、これが飴と鞭というやつか!? だとするなら次は鞭なのじゃ!?」

 感涙するフォシスだったが、いままでスパルタに扱かれてきたのを思い出し、すぐに身を退いた。ショーンは気にしていないのか、苦笑いしてカウンターに入っていった。


 フォシスがこれ以上失言してショーンを怒らせないように、スマホの話題を切り出すことにした。


「これで緊急の連絡がとれるようになるな」

 フォシスの隣に座り、スマホの機能や連絡先の追加などあれこれ教えていると、先程の話を思い出した。


「他にもアプリ……あぁ、それこそさっき言ってたヤマッターがあるぞ」

「ほぉ、やるがよい」


 偉そうにスマホを渡してくるフォシス。まぁ最初のうちは代わりにやってやるかと、ヤマッターアプリを入れ、フォシスのプロフィール作成を手伝う。

 ある程度の使い方を教え、ショーンがいつの間にか煎れてくれたコーヒーで喉を潤す。


 フォシスは地球の技術に夢中のようで「ふむ、メタモリアンの技術に劣るが意外にも発達しているんじゃの」と感心していた。


「このヤマッターとやらは便利じゃの。情報収集にうってつけではないか」

「んー調べ物するなら、普通に検索した方がいいけど。ヤマッターならリアルタイムで起きていることはすぐトレンドに乗ったりするし、そこは便利かもな」

「ふむ。とれんど……これか、色々あるのー。むぅ、漢字はまだ完璧に読めん。これなんて読むのじゃ。や、やま、か? さんに?」


 喫茶店の営業が終わってから寝るまでの間は真が読み書きをフォシスに教えているお陰でだいぶ日本語を理解してきているが、まだ読めないところもあったらしい。フォシスのスマホを覗きこみ、「どれだ?」と画面に目を滑らしいく。


 タップされたトレンドワードは、【山荷コーポレーション本社に第二の宇宙人襲来!?】。


「……さんか」

「ほぉ、山荷さんかと読むのか。漢字は難しいのぉ。えぇと、山荷コーポレーションに、だいにのうちゅーじんしゅうらい……うちゅうじん、宇宙人ッ!? ま、ま、マコトッ、刺客じゃあ! 第二の刺客じゃあ!」


 あわわ、となっているフォシスを尻目に、真も自身のスマホでヤマッターを開く。

 トレンドワードをタップし、更新すると画像や動画が大量に投稿されている。これは、恐らく山荷の本社ビルだろう。どれも遠目から撮影されており、中に入れないよう封鎖されていた。


 情報よりもまず現場に向かおうと立ち上がった時、喫茶店の扉が開いた。入ってきたのは篝で、鍛錬を途中で切り上げてきたのか、荷物はなく赤い胴着を来ていた。


「真! ヤマッターみたッ?」

「丁度今知って向かうとこ。フォシス、俺と通話状態にしといて」

 そうすれば変身後も敵の情報を聞けるからと伝え、二人は走っていく。


「マコトッ、メスゴリラ!」

 外に出て少し走った所でフォシスの声が聞こえた。振り返ると、彼女は喫茶店の入り口から大きく手を振っていた。


「無事に帰ってくるんじゃぞーッ! 今夜はカレーじゃからのぉ!」

 真はそれにグッと親指を立てて応え、篝はそれにグッと親指を下げて応えた。

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