ワイルドな淑女はカッケーですわ!Ⅰ

 メタモル・オーネの襲来から半月の時が過ぎた。これといった進展は無く、またフォーゼスとしての活動も無かった。

 ただ、真や篝たちに一つの変化はあった。


「ふぅ、ただいまー」「どうもでーす」


 何処かで鶏が鳴いている早朝。来客を告げるベルを鳴らして、真と篝が喫茶店に入ってくる。

 その姿は動きやすい運動服で、額からほんのりと汗を垂らしていた。二人に気付いたメイド服もとい仕事服に着替えているフォシスが迎え、飲み物を手渡す。


「こんな朝っぱらから精が出るのー、ほれプロッヒー」

「わぁいプロッヒーだー」

「……うわぁ」

 笑顔で受け取る篝と引いている真。カップを受け取った二人の顔は対照的だった。


「毎朝走るのは慣れてきたけど、これだけは慣れない」

「何言ってるのさ、朝にピッタリな飲み物じゃない」

「いや、妾もどうかと思うぞソレ」


 真と篝の好きな飲み物。コーヒーとプロテインをフォーゼスの如く融合! した結果、このプロッヒーという栄養ドリンクが出来上がった。

 朝にバッチリと目覚めのカフェイン、そしてタンパク質が一杯で十二分に採れて味も悪くない、が。コーヒー牛乳でいいだろと思ってる真は些か慣れない飲み物だった。


「んッ、ぷはぁっ。やっぱ慣れねぇ。明日からはコーヒー牛乳でいいや」

「えぇっ、今ヤマッターで人気急上昇中の飲み物なんだよ!? イマドキ女子のソウルドリンクなんだよ!?」

「少し前まではスムージーとかタピオカがトレンドだったろ。どうせ一過性のものだよ」

「だとしても! ボクだけは飲み続けるよッ。プロテインがあるかぎり!」

「そんなことよりも朝ご飯が出来たぞ。おぬしら、はよう手を洗ってくるのじゃ」


 フォシスに返事し、洗面所へ向かう篝。真も続こうとしたが、ふとフォシスの姿が目に入った。

「……だいぶ馴染んできたな」

 フライパンを握り、豪快にチャーハンを作るフォシス。長い銀髪をポニーテールに縛り、服も相まって非常に似合っている。

「うむっ。この間マスターからも合格を貰ったのじゃ!」

 客足の少ない時間はもうフォシス一人に任せられるとショーンからお墨付きを貰ったようで、昼前までは彼女だけで店を切り盛りしている。


 篝も最近は純粋な力以外に、女子力というモノを磨いているようで、友達も増えたらしい。それはどうやらあのギャルのようで、公園の一件で恩を感じ、謝られたのを切っ掛けで仲良くなったと聞いている。


 そして、真自身も変わった事があった。

 身体能力の強化。いや、高校生男子の平均に戻ったというべきか。フォーゼスの時と違って、篝のように動けはしない。だが虚弱体質は徐々に治りつつあり、今朝もこうして体力作りのためにランニングをしてきたのだった。


 そこで、あることを思いだした。

「俺、子供の頃は普通だったな」

 篝との融合によって過去を覗き、幼い自分をみてきた。が、普通に篝と一緒に走り回っていたのだ。


「なんで急に虚弱体質になったんだろ」


 今では走ったり重いモノを持っても苦ではない。そんな事を考え込んでいると。

「どしたの真。早く洗ってきなよ」

「あ、おう」


 篝の声で思考の海から引っ張り上げられた。顔を上げると、フォシスの料理も完成し並べられている。

 今は考えても仕方ないと、早く手を洗ってご飯を食べることにした。


 ***


 朝食を食べ終えた篝は汗を流してくると言い、浴室でシャワーを浴びている。順番待ちの真は今のうちに学校の支度をしてこようと席を立つ。その時、フォシスが口を開いた。


「そろそろじゃの」

「え? なにが」


 ポツリと呟いたのが聞こえ、真は立ち止まった。フォシスは皿を洗いながら続ける。

「刺客じゃ。オーネが倒されたことで、慎重な父上……アルコーンは、そろそろ次の刺客を放ってくる頃じゃろうな」


 もはや自身の父を呼び捨てにしたフォシスは、蛇口をキュッと締めて振り返った。

「気をつけよ。オーネより力のある者はおらんが、戦いの経験を上回る者なら腐るほど居る。いくらあのメスゴリラが強いとはいえ、油断は禁物じゃ」


 心配で瞳を揺らしているフォシスに感謝しながら、苦笑いを浮かべる。

「篝の前でそんな事言ったらまたシメられるぞ」

「つってもあのゴリラここにおらんしぃ。そいやあのフォーゼスのフォーム名を決めておらなんだ。どれ、妾が名付けてしんぜよう。んんっ、姫の名の下に命ず、あの野蛮で殴るしか脳のないフォームはゴリラフォー……」

「フォシス。なんか楽しそうにベラベラ喋ってるとこ悪いんだけどさ」

「のじゃ?」

 真は困ったように額を抑え、店内の奥にある居住スペースの方へ指さした。


 そこには、ポタポタと水滴を垂らし、前髪も垂らしている妖怪(篝)がいた。


「それじゃ、俺はシャワーを浴びてくるよ」


 背後で轟く悲鳴を無視して、浴室へ悠々と歩いていく。悲鳴がショーンの不愉快な目覚ましとなり、もう一人分の悲鳴が追加された事はまったくの余談である。

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