強くてカワイイは最強で最カワ《篝》

「ふーん。真たちの事情は分かったよ。ボクも協力するから、よろしくね。フォシスちゃん」


 喫茶店アスピラシオンに戻った二人は、ショーンから労いにコーヒーを振る舞われていた。その際に篝は協力者として、フォーゼスと共に戦う者として、フォシスと真から事情を聞いていた。


「うむっ。おぬしのような脳筋ゴリラがフォーゼスと一緒に戦ってくれるのは心強いのじゃ」

「だ・れ・がッ、脳筋ゴリラなのかなッ」

「のじゃッ!? 脳筋である事を受け入れたんじゃろ!?」

「ボクが望み、受け入れたのは『強さのために可愛さを捨てる必要は無い』って事だよッ、というかそんな罵倒は受け入れる前のボクだって怒るっての!」


 こめかみに血管を浮かばせた篝はフォシスの頭を掴んで万力のように締め付ける。「んのじょあーッ」と泣き叫ぶ哀れな姫を、真は助けもせずコーヒーを啜って眺めていた。


「にしても、篝がこれに吸い込まれて俺と合体するなんてな。その間は篝の思考も体の動かし方も自然と分かっちまう。まるで自分が篝になったみたいだ」


 これが文字通りの融合。フォーゼスへの変身。いずれ自分を見失ってしまうのではないかと不安になる。そんな思いが表情に出ていたのか、篝はフォシスを捨て「ぷげらっ」心配そうに真の顔を覗き込んだ。


「大丈夫?」

「ん、あぁ」

 コーヒーに反射した自分の顔に気づき、心配いらないと微笑むが、不自然に引きつってしまった。


「……ボク、嬉しかったよ。今まで誰にも『可愛い』って言われたこと無かったし。心の中では、強さのためには女の子らしい〝可愛さ〟は要らないって想ってたけど、やっぱりその更に奥底では、〝可愛い〟って言われたいボクもいた」


 いつの間にか真の手を握っていた篝。慈愛に似た表情でみつめてくる。

「ボクと真が混ざり合ったあの時。真がボクみたいになったのと同じように、ボクも真になったみたいに感じたんだ。ボクを、誰かを助けていきたいって気持ちが溢れてた」

 まさか自分と同じように、過去を視てきたのかと不安になったが、彼女とはいつも一緒にいたので今更だなと頭の隅に追いやった。


「もし、自分を見失うかもしれないって思ってるなら安心して。ボクが真を見つけて、戻してあげる」

「えっと、どういうことだ?」

 心底分からないといった表情を浮かべる。篝はそれに、ニカッと笑って応えた。彼女のその顔は久しぶりにみたような、あまりにも篝らしい快活な笑みだと感じ、つられて微笑んだ。


「言ったでしょ。ボクが真を守るってさ!」


 苦いコーヒーを飲んでいるが、空間はとても甘い。更に砂糖を追加するように、篝はまだ握っている真の手をギュッとして――


「妾を無視するなーッ」

 甘い空気が消え去った。


「マコトーッ、このメスゴリラはフォーゼスに相応しくないのじゃぁ、他の女子を探した方がよいのじゃぁーッ」

「真に他の女の子なんて必要ないよ。ボクだけで充分さ」

「のじゃ? すまぬ、妾はメタモリアンゆえ。霊長目ヒト科ゴリラ属の言葉は分からん」

 再び万力の餌食になるフォシスに、ため息が出てしまう。


「篝は怒らすなって言っただろ」


 カウンターに頬杖ついて呆れる真。だがその表情にもう不安はなく、篝の編み込まれているサイドヘア、そこで咲いたように付けられているシクラメンのヘアピンをみて、微かに笑っていた。

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