強くてカワイイは最強で最カワⅤ
今まで住んでいた新潟とは違って、自然があまり無い場所。これが都会かと、篝は子供らしくワクワクしていた。
抑えきれないその感情を爆発させ、引っ越し作業の途中にもかかわらず、彼女は近場を探検をする事にした。
目新しい遊具がいっぱいあるアトラクションエリア。海が見渡せる展望台エリア。人工的だが篝にとって馴染み深い自然がある森林エリア。
歩く度に景色が変わる。まるで世界旅行でもしているかのような気分になり、スキップしながら鼻歌を奏でていた。
「あれ、ここどこ」
そろそろ帰ろうかと辺りを見渡す。家の近くまで来ているはずだが、引っ越し初日の子供がすんなり道を覚えて帰れるはずもなく、迷子になった。
「ふみゅぅ」
もう家に帰れない、そんな事を考えた篝の目に涙が浮かぶ。
「どーしたの?」
「ふぇ?」
見知らぬ声。振り向くと、篝と同じくらいの男の子が立っていた。
「なんでないてるの」
「かえれない。おうちかえりたい」
「おうち、どこらへん」
「えっと。きょじゅーく? までいったらもうわかるん、だけど」
迷子になっている事を伝えると、男の子は「ちょっとまってて」と言って道脇に飛び込んで消えた。そしてすぐに戻ってくる。
「よし、ショーンさんに居住区までいくこと言ったから、いっしょにいこ」
「つれてってくれるの?」
男の子は強く頷き、手を差し伸べる。
「もう、だいじょーぶだよ!」
それが、真と篝の出会いだった。
後に、無事家へと帰れた篝。篝の両親からどうしても礼をしたいと言われ、困った真は喫茶店アスピラシオンを宣伝し、それから先も篝家と交流が続いていった。
そんなある日の事。
夕方は真と遊ぶのが日課になった。今日は何して遊ぼうかと、待ち合わせ場所であるショッピングエリアの広場へ向かっていく。
早く真に会いたい。感情のままに走りだし、
「ってぇな。おいガキこら」
角を曲がった所で、男性とぶつかってしまった。見上げると、年上で制服を着た少年。その後ろから、わらわらと数人やってくる。
「どしたん?」
「ガキがぶつかってきた。あーあー、一張羅に涎でもついてたらどうしてくれんの。クリーニング代をよこしな」
「ぷっ。こんなガキが金持ってる訳ねーだろ」
幼い少女を囲むようにして、少年たちは嘲笑う。
「ご、ごめん、なさい」
すっかり怯え、縮こまった篝はどうにか許してもらおうと小声で謝罪する。だが少年たちは嘲笑を浮かべたままで、解放する様子はなかった。
「だーめ。お嬢ちゃん、お父さんとお母さんは何処かな? お兄さんの服を汚した事、ちゃんと言ってお金を貰ってきな」
「おいおい、マジでガキからむしり取るのか? ま、遊びすぎて金尽きたし丁度良いか」
恐怖で震え、声も出せない篝。少年は痺れを切らし、手を伸ばしてくる。
「――やめろッ!」
「ぐぇッ」
突然、手を伸ばした少年が何かに追突されたように吹っ飛んだ。
「ふぇっ、まこと!?」
篝を守るように手を広げ、現れた真。
吹っ飛ばされた少年が腰をさすり立ち上がった。明らかに苛立ちの表情を浮かべ、舌打ちする。
「ちっ。クソガキが。年上に喧嘩売るって事を分からせてやる」
「ぷぷっ、だっせー。ガキにやられてやんの」
少年は仲間に煽られ顔を赤くするが、深呼吸した後に無表情へと変わり、真たちへ拳を向けた。
「先に手を出したのはテメェだからな」
「ッ、ぅがッ」
「ま、まこと! ……や、やめて、くださいッ」
少年の蹴りで吹っ飛び、路地裏の壁に叩きつけられた真。今度は篝が庇うように前へ出るが、少年は無視して真の方へ歩く。
「弱いくせにッ、ガキがッ、いっちょまえにッ、しゃしゃり、出んなッ」
少年はイラつきの言葉を吐きながら、真をサッカーボールのように何度も、何度も蹴り上げる。
徐々に呻き声さえ上げなくなった真をみて、篝は少年を止めるように足へ抱きつき、大声をあげる。
「や、やだ。誰かっ、誰か助けて!」
「なぁ、そろそろヤバくね。てかコイツ死なね?」
「ふぅっ、ふぅ。はぁ、チッ。殺人犯になりたくねーし、もう止めてやるか」
遠くから駆けつける複数の足音が聞こえ、少年たちは退散していく。
「ふん。守ろうとしたガキに守られる。かっこわりークソガキだな」
少年は篝を振り離して去って行った。そんな様子を、真は朦朧とした意識で見つめていた。
程なくしてやってきた警備員に保護された篝と真。真は幸い骨折などしておらず、擦り傷や打撲で済んだ。
しかし、その日を境に、真は些細な事で体調を崩したり、体力や筋肉がつきにくい虚弱体質へと変わってしまった。
「真、大丈夫?」
「おう、ちょっと風邪引いただけだよ。でも今日遊ぶ予定だったのに、ごめんな」
「ばか。そんなの気にしなくていい」
篝は十歳の誕生日を迎え、一つの決意を固めた。
「ボク、これやろうと思うんだ」
真へ渡したのは、一枚の紙。内容には『入門は十歳から』と書かれていた。
「あー、スポーツセンターでやってる道場か。でもなんで急に?」
疑問を浮かべている真を、しっかりと見つめ返す篝。
「ボク、守るから」
「守るって何を?」
更に疑問を深めた真。篝は微笑み、答える。
「日常、かな?」
「なんだそれ」
初めて出会った時、自分を助けてくれた真。そんな頼りになる男の子を、自分のせいで弱くしてしまった。
責任を感じ、篝は強さ以外を捨てる勢いで武道にのめり込む。またあの頃のように、気兼ねなく遊べていた時間を取り戻すために、強くなる。
『――ボクに女の子らしさなんていらない。強くなれるなら可愛さなんて、いらない』
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