強くてカワイイは最強で最カワⅣ

 人波に逆らい疾走するまこと。やはり自分の身体能力は向上していると感じるが、深く気にせず存分に脚力を解放していく。エリア間の移動は走って十分ほどだが、今の真にとっては三分も必要なかった。


「よし、公園が見えてきた」

『油断は禁物じゃぞ、マコト。奴らは何にでも化けるメタモリアン。辺りに注意をはらえ』


 ポケットから聞こえるフォシスの音声に従いながら、草木や街灯など設置されている物に目を向け、注意深く観察しながら公園へと足を踏み入れる。

 もうある程度避難しているのか、エリア内で過ごしている人は殆どいない。目立つのは、少し離れた所で放送しているテレビカメラマンたち。いざとなれば逃げられるだろうし、万が一の時は自分が逃がせると考え放置した。


 だが、

「あの子、何やってんだ」


 真が注目したのは、公園の中央で自撮りをするようにスマホを構えている女子高生。彼女は何もない空間をバックにして何やら身振り手振りをしている。

 一体何をしているのか怪訝に思い首を傾げた時――ソレが視えた。


「空間が割れてる!?」

 そこだけポッカリと、まるでSF映画に出てくるようなワープホールがあった。


『間違いない、てれびに映っていたのはそれじゃ。そのワープホールは奴らの宇宙船と道が繋がっておる。いつ出てきてもおかしくないのじゃ!』

「わかった!」

 念のためパーカーのフードを被り、身バレしないよう気をつけながら、まだ自撮りを続けてる女子高生の元へ向かう。彼女の声と顔が認識出来る距離まで来ると、真の口元がヒクついた。


「コレマジ映えだよねぇー、ヤマッターで超バズ間違いな――うん?」

「さっきぶりだな、ギャル子」

「うわ、不審者かと思ったら桃野さんの彼氏じゃん。って、誰がギャル子よ」

「別に彼氏じゃ、ってんな事はどうでもいい! 早くここから離れろッ」


 真に気付いたギャルはあからさまに嫌そうな顔を浮かべ、そっぽを向いた。

「はぁ? アンタに命令される筋合いないんですけどぉ。今これヤマッターで配信中なの、邪魔だしアンタがどっかいってよ」

 そう言い、真を無視してワープホールをバックにペチャクチャと視聴者に向けて喋るギャル。


 もう力づくでエリア外まで運んでいこうかと考えた、その時。


「あら。配信って事は観られてるのね? いいわよ、存分にアタシを撮りなさい。このパーフェクトビューティーのアタシをね!」


 第三者の声が割り込んで来た。声の元は、ワープホール。そこから顔だけ覗かせた存在は、「どっこいせ」と公園エリアの芝生に足を付けた。

 配信中のギャルは勿論、真もフリーズしていた。まるで未知との遭遇をしたかのように、呆然と口を開けたままだった。


「あら、どうしたのかしら?」


 出てきたのは、メタモリアンに違いない。だが、真の脳は理解を拒んでいた。

 女性のような丁寧な言葉遣いと所作でコチラに声を掛けてくる。


 だが、男だった。

 否、漢と呼ぶべき巨漢だった。


 スキンヘッドで筋骨隆々。真を優に越える身長からは、威圧感が漂っていた。


「な、う、宇宙、人、ばけ、もの? ……バズどころじゃないってぇ」

 ギャルは涙目になり、やがて腰を抜かした。真はすかさず庇うように前へ出る。


「あら、こんなカワイイ乙女に向かって開口一番ソレって失礼しちゃう」

 頬に手を当てクネクネと身をよじる姿は、気持ち悪さを体現していた。そして警戒している真を余所に、横ピースで決め顔をして自己紹介を始めた。


「アタシはメタモリアン偵察部隊幹部――メタモル・オーネよ。よろぴくね」

「オネェ?」


 真がそう言うと、オーネはスキンヘッドに血管を浮かばせて怒鳴った。

「オネェじゃなくて、オーネよ! 次間違えたらブチコネんぞゴラァッ!」

「ひぅっ」

 変貌したオーネにビビるギャル。真も若干ビクッときたが、気合いを入れ直してオーネを睨んだ。


「メタモリアンが地球に何のようだ」

「んー、下等生物に言う必要は無いけれど……あら?」


 突然オーネが真の背後へと視線を移した。


「真ーッ!」

「篝!? なんで来たんだッ」

 息を切らした様子で真の傍まで走ってきた篝。


「だって、今日の真、一日中変だったから心配で……」

「だからって……」

 まだ言いたいことはあったが、そんな場合じゃないと文句を呑み込んだ。そして、恐怖で震えているギャルを指さす。


「篝、その子を連れて逃げるんだ」

 そう言われ、知り合いがいた事に気付いた様子の篝。そして彼女はオーネにも目を向けた。


「……なんで田中さんが居るのか、なんで映画みたいな空間があるのか、なんでヤバそうな人がこっち見てるのか、分からない事だらけなんだけど」

 田中に肩を貸しながら、真の後ろ姿へと語りかける篝。


「あとで、ちゃんと説明する」

 真は少し振り向いて、申し訳なさそうに笑う。視線がジッとぶつかり、篝が先に逸らした。


「大丈夫、なんだよね? ……怪我したらスッゴく怒るから」

 ただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、篝は心配を残しながらも田中と共に離れていった。


「……ちゃんと待っててくれるんだな」

「えぇ、あなたイケメンだし。デートにでも誘おうかと」

 バチコン! と投げキッス付きのウィンクに吐き気を催したが、頭を振って立ち直した。


「ノーセンキューだ」

 ペンダントを掴み、深呼吸する。鼓動を感じ、それと一体化するように息を合わせて呟いた。


「――変身願望メタモルフォーゼ


 ペンダントから光が溢れ、真を包む。重厚な機械音を鳴らし、胴体や四肢に純白の防具が装備され、最後には頭上から現れたマスクで頭が覆われると発光が収まった。

 眩い光の中から現れたのは、白い戦士。


「……あらあら。そう、探す手間が省けたわ」

 ニコニコと笑みを浮かべていたオーネだったが、変身した真の姿をみて眉間にシワを寄せた。


「さっき、目的を聞いてきたわよね。いいわ、答えてあげる。と言っても、あなたなら予想がつくでしょう? アタシの目的は、お姫さまの奪還。そして、あなたの抹殺よ」

 オーネは体の調子を確かめるように首を回し、先程と比べものにならない程のプレッシャーを放ってくる。


『マコトッ、聞こえるかの!?』

 マスクの内側から聞こえてきたフォシスの声に軽く動揺するが、変身した時に通信端末が一体化したのかと考え、小さく返事した。


「フォシス。オーネというメタモリアンは知ってる?」

『当たり前じゃッ。気をつけろ、奴は――」

「ッ、ぐぅッ」

 フォシスと会話していたとはいえ、オーネから一切視線を離さず警戒していた。だとというのに、いつの間にか接近されていた。繰り出された攻撃を両腕でクロスするよう受け止めるが、数メートル後ろへ吹っ飛ばされた。


「注意散漫よ。戦うなら集中しないとね」


 腕の痺れで、オーネの力を理解した。

「圧倒的なパワー。シンプルだけど、力比べは、ちょっとキツいな」

『一旦逃げるのじゃッ。オーネは偵察部隊幹部という肩書きじゃが、戦闘部隊の幹部より強いのじゃ!』


 すぐに身を起こし、吹っ飛ばしてくれた奴を探すが、どこにも居ない。


「こっちよ」


「あがッ」

 後ろからの声には辛うじて反応出来たが、首を掴まれてしまった。


 足が地面から浮くほど掴み上げられるが、なんとか蹴りを放つ。軽く躱されてしまったが、拘束が緩み脱出できた。


「思ったより弱いのね、アナタ。ミメシスの奴は高く評価してたみたいだけど、勘違いじゃないかしら。あの子、戦いすぎて節穴にでもなっちゃったのね」


 四つん這いになり、酸素を求めて激しく呼吸している真を見下すオーネ。

「ま、楽な任務で助かったけれど。あーでも、今殺したらお姫さま探すのが面倒になるわね。うーん……時間はたっぷりあるからいいか。イケメン漁りながら探しましょ」


 もう真に興味がないのか、ぶつぶつと考え事をしながら近づいてくる。今度こそ、確実に息の根を止めてくるだろうオーネに、真は必死に立ち上がろうとする。


『マコトッ、立て! 逃げるんじゃ!』

「さて、まず一つ目の任務を完遂、と」

 フォシスの必死な叫び声、オーネの異常に膨張した腕。迫り来る死に抵抗しようとも、立ち上がる事は出来なかった。


「くそ……力が手に入って、子供みたいに舞い上がった結果がこれか……あ」


 もはや諦めの感情に流され、変身が解けてしまった。そのまま目を閉じ、最期の時を――


「やあぁッ!」


 聞き覚えのある声で、真は顔を上げた。


「あら、アンタさっきの女の子じゃない」

「はぁっ、やぁ! てやぁ!」


 真の死を止めたのは、篝だった。必死にオーネの体へ拳を叩きつけている。

「……やーね。アタシ、アンタみたいな子は好きじゃないの」

「きゃッ」

 重い打撃音を響かせているが、オーネに効いた様子はない。鬱陶しく思われた篝はデコピンで吹っ飛ばされた。


「篝ッ!」

 足が縺れながらも、篝の安否を確かめにいく。

「篝、大丈夫かッ」

「ま、こと……」


 ただのデコピンに見えても、戦闘を得意にしているメタモリアンの力で繰り出された威力だ。人間にとっては致命傷に至る力だろう。額から血を流し、意識を朦朧とさせている篝を抱き上げる。


「危ないって分かるだろッ、なんで来たんだよ!」

 彼女の編み込んでいる髪が解け、目が覆い隠された。見えるように優しく髪をはらうと、篝は弱々しく微笑んだ。


「だって、ボクは、真を守るために、そのために、強く……」

「……かがり? 篝ッ」


 浅くなっていく篝の呼吸に焦り、彼女の頬に手を当てる。

 瞬間、ナニかが流れ込み、真の意識が飛ばされた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る