強くてカワイイは最強で最カワⅢ

 学校では、篝からいつも通りの雑談、という名の探りを入れられなんとかやり過ごせた。そして何故か不機嫌が直らない彼女のために「放課後は一緒に遊ぼう」と約束を取り付けた。というか取り付けられた。


 なのでこうして約束通りショッピングエリアを二人で歩いていると、

「ねぇ、真。本当に大丈夫なの?」

「平気。昨日だってフォシスを――っと、とにかく持てるから。荷物もちは任せろ」

 トレーニングに使うというウェイトが入った袋を持ち、真は上下に揺らす。


「……助かるけどさ。無理してない? あとで筋肉痛になってもがいたり、体調崩して風邪ひいちゃったりしないの?」


 確かに、真は全力疾走したり、少しでも雨に濡れるとすぐに倒れる虚弱体質だった。だが、昨日の出来事で体が丈夫になった実感がある。

 これもフォーゼスと何か関係あるのだろうかと考えるが、とりあえず今はご機嫌取りのため荷物もちに専念することにした。


「さっきからスポーツショップばかりだけど、他の店に行かないのか? ほら、女子ってよくウィンドウショッピングーとか言ってるじゃん」

 隣を歩いていた篝は、一瞬だけ表情に影を落とした。が、すぐに「たはは」と笑って手を振った。


「ボクにそんなの似合わないって」


 彼女は一歩先を歩き、真から離れていく。

 振り向かずに「置いてくよー」と言われ、すぐに追いかける真だが、とある店が目に入り、篝を呼び止めた。


「ああゆう店とか気にならないのか?」

「んー?」


 篝は気の抜けたような返事で振り向き、真が指さす場所を見た。

 ショーケースに入っているマネキンが、可愛いスカートやワンピースを著て華麗なポーズを決めている。

 二人が見ている店は、若い女性が出入りするガーリー系のセレクトショップだった。


「こんなのボクには……って真っ」

「小物とかも売ってるみたいだぞ」

 店から視線を切って前を向いた篝だが、真が入ろうとしているのに気付いて慌てて追いかけてくる。


「なんだよ、女子ってこういう店で服とか買うんじゃないのか?」

 安くて質も良いブランド『サンクロ』で適当に揃えてる真からすれば、女子はこのようなブランド店が羅列している所で金と時間をめいっぱい掛けてファッションを楽しんでいるものだと思っていた。


「偏見でしょ。ボクもサンクロで揃えてるし。……いやまぁ多少はお洒落っぽいもの意識してるけどさ」

 キラキラとした様子で「いぃーらっしゃいませぇー、どーぞごらぁんくださぁい」と語尾を上げて客引きしてる茶髪のイケイケねーちゃん。そんな店員に気後れしながらも、篝はチラチラと興味を隠せない様子で売り物を眺めていた。

 そして気に入ったものがあったのか、小物コーナーで足を止めて手を伸ばしている。


「これくらいなら、ボクでも……」

 彼女が手に取ったのは、ピンク色の花をモチーフにしたヘアピン。

 良いんじゃないか、と思った真は買ってあげようと手を伸ばし、

「あれ、桃野さんじゃん」


 二人の後ろから掛かってきた声。真は振り向くが、面識のない金髪のギャルに首を傾げた。彼女は篝に目を向けており、知り合いだろうかと一歩下がって様子をみる。


「あ、田中さん。こ、こんにちは」

 いつも元気溌剌(げんきはつらつ)としている篝には珍しく、控えめに手を挙げて苦笑いで挨拶した。


「なぁに、アンタもこういう店に来るんだ」

「あはは、えっと、成り行きでね」

「ふぅん?」

 そこで初めてギャルと真の目が合った。


 ギャルは品定めするように、真の足下から頭までじっくりと視線を移動。

「顔はカッコイイけど、なんか雰囲気が地味ね。まぁいんじゃないの? オトコっぽいアンタにピッタリよ」


 明らかに篝を貶され、文句を言ってやろうとするが、篝は遮るように真の前へ出てきた。


「ボクはいつも言われてるからいいけど、彼を悪く言うのは止めて。もしまた言ったら……次の稽古、手加減しないよ」


 その言葉に怯んだのか、ギャルは捨て台詞を吐いて撤退していく。

「ッ、アタシより強いからってチョーシのんなよッ。このオトコオンナ!」

「なんだとこのやろう金髪ギャル待てこら!」

「こら、お店の中で叫ばないの。というかこの前言ったでしょ、あの子は真より強いから返り討ちにされるって」

 篝が香水をつけた切っ掛けを思い出し、真は立ち止まった。


「あのギャルが篝の事をいつもバカにしてるのか。……疑問なんだけど、何でチャラついたギャルが空手道場に通ってるの」

「たしか『可愛いアタシが襲われても大丈夫なように護身術をー』とかだったっけな」

「殊勝なんだか浮ついてんのか分からないな」


 微妙な気持ちになった真は、もう帰ろうと提案するのだった。


 ***


 帰る前に何処かで休憩しようとなり、ショッピングエリアにあるコーヒーチェーン店『ヤマーバックス』へ寄ることになった。


「ん、ショーンさんが煎れる方が美味しい」

「そりゃここはチェーン店だしね、純喫茶には敵わないでしょ。……んー、うん、これならボクもアスピラシオンコーヒーの方が好きだな」


 店にとってなんとも迷惑な会話をしながらコーヒーを飲む二人。そうして、外の景色を眺めていると、公園エリアの方から人が流れ込むように走っているのに気付く。


「なんだろ、芸能人がロケでもやってんのかな?」


 この人工島にはテレビ局もあるため、篝はよくあることだとすぐに興味を失ったようだ。

 対して真は危機感を抱いていた。走る人々の表情は焦り、恐怖、負の感情が浮かんでいるのを見たからだ。

 その時、真のスマホが鳴った。画面には『ショーンさん』とあり、篝にはお手伝いに行くと言って離席した。


「もしも――」

『マコトッ、刺客じゃ!』

 着信に出ると、予想外の相手に加え予想外の声量で鼓膜を叩かれ、スマホを耳から遠ざける。


「いつつ……フォシス、そんな大声出さなくても聞こえるって」

『む、そうなのか。なんとも便利な端末じゃの。まぁメタモリアンの技術には劣るが――ってそうではなくッ。近くに刺客が来る、攻めてくるぞ!』

「なんで分かったんだ?」

 今頃喫茶店で働いているフォシスに何故分かるのかと眉をひそめる。


『えーと、なんじゃっけこれ『テレビだよ、フォシス君』そうそう、てれびに映っているのじゃ! 昨日、妾たちが出会った場所でッ』

 フォシスからの情報提供、そして今も外で多くの人が公園エリアから逃げるように走っている事から、事態を把握した。


「分かった。俺はとりあえず現場に向かって戦うよ」

『待て! 昨日も言ったが今のマコトが戦っても――』

「とにかく急ぐから通話を繋げたままで、フォシスはそこから動くなよ!」

 スマホを胸ポケットにしまい、急いで篝の所へ戻る。


「篝、ごめん。用事が出来たから今日はここで解散ってことで」

「え、急だね……何かあったの?」

「その、いや……ショーンさんに買い出し頼まれちゃったから急いで行かないと、じゃ!」

「あ、ちょっとっ――って、そっちは公園エリアだよ!?」


 篝の引き止めに応じず、真は慣れない言い訳を並べて公園エリアへ向かった。

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