お気に入りの紅茶の缶に入れた時、ただしい正方形の透明フィルムは銀色になってきれいだった

@u___ron

第1話


 薬が一つあった。

 テーブルの上だ。私はついさっき、点線でくっついていた薄いビニールの袋を二つにしようとして、失敗して、中身の出るほど口を開けた方を飲んだ。

 それでも薬が一つあった。

 通院は明日で、その薬はあるべき薬じゃない。

 寝る前に飲むとよく眠れる気がしているが、飲んでいても眠れないこともある。たぶんその日は、まるっきり飲んだつもりで眠れなかったんだろう。

 いびつなもう一方を残してぼんやりと、フィルムに包まれた薬が一つある。

 飲んでしまったらどうなるだろう。

 非常によく眠れるのだろうと思う。

 しかし、自分の身体に、薬の味を覚えさせたくはない。

 死に薬品のオーバードーズを望むかもしれない。その時に、かつての過剰供給によって苦労した経験を、身体が持っていたら事だろう。そうそう、新しい薬に変えることもなくなってきた。それは労働の報酬がなければ、餓死が早いか、強制退去での凍死が早いかの人生だからだ。

 少し考えて、私はフィルムの切れっぱしを裁ち鋏で落とした。きれいな正方形の、ただしく未使用の薬が一つ、テーブルにある。

 お気に入りの紅茶が入っていた缶を出してきて、入れる。ここに、薬が一つある。


 これが増えれば、いつでも死ねることになる。

 生きることで安心できないのであれば、生きている間なんの保険もかけられないのであれば。

 死の保険くらいかけて、安心しておこう。

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