第27話 記録『■■の村』
丹羽君の後について歩き続けることしばらく、川を下った先にその村はあった。
「まだ完全確認してはないですけどこの雰囲気…多分当たりっすよ」
「ならば入るしかあるまい」
肌で、直感で、能力で感じ取った。ここだ。
「私が行こう。危険があれば叫び声を上げる。そしたらすぐに逃げて座標をチームに伝えてくれ」
私の指示に黙って頷く丹羽君を背に廃村へ侵入する。共倒れは避けたい。折角見つけたのだから。
「さて。では民家から調査して行こうか」
ランプを片手に建物へ侵入する。何か資料だけでも確認できればいいのだが。
そして一時間と探索したがいよいよ手がかりが見つかることはなかった。二、三件巡ってこれでは仕方ない。特徴から見るに、恐らくはこの村は十九世紀に捨てられた、ということしか推理できない。あまりにも情報が少ない。こんなことは今までなかったのだ。
「そうなるといよいよ」
村の奥に見える大きな社を探索するしかない。村へ侵入する前から異様な雰囲気を放っていた。この地域全体の建物の特徴や規模と会わぬ歪なサイズ感と意匠。根拠はまだ無いが他の民家よりも一際古い時代に建てられたのだろう。
石張の境内を中央を逸れながら慎重に歩く。先ほどから本能が訴え続ける。「ここにいてはいけない」「この先だけはだめだ」と。本能を理性で抑え、足は好奇心に任せる。
無作法ではあるが正面から突入させてもらおう。突入とは言うが丁寧に正面から入るだけだ。がたつく木製の扉を開く。思ってた通りに広い空間だ。せめて何か少しでも収穫がほしい。
「っ!」
部屋の中心に赤黒く染まった何かが倒れていた。人、それもまだ小さな子供が倒れていたのだ。
何故こんなとこで?何故白骨化していない?何故な子供なのか?そう頭が疑問符で満たされたところで私は無意識に駆け寄ってしまった。
「おい!生きてるか!!」
返事は無い。ただ赤黒い死体は何か抱いている。丁寧に引き剥がし血を拭き取るとそれは書物だった。
ついに手に入れた資料をその場で死体を横に読みふける。この村とその管理者について書かれていた。また、この死体のことも。すぐにこれを持ち帰れば良かったものの私は我慢出来ず全て読んでしまったのだった。
そしてここで無配慮にも死体の横でランプを照らし続けたことが、私の『過ち』だった。
ぐさり。そんな音が聞こえた気がした。死体は起き上がりその指で私の手を貫いた。
「ぬぅ!?」
我々は鬼を探しにここまで来た。ならばその終着点がなんなのかは。考えるまでも無いだろう。
ここで天狗の火を使う訳には行かぬ。せめて外に誘き出してからにせねば。まだ調査したいことはあるのだ。
「オレを起こすか。童めが」
少女の声で死体は喋った。全身赤黒くて分からんが少女らしい。しかして少女が言う台詞ではなかろう。角のようなモノまで見えている。
「私の名は八雲修元。お前の名を聞こう」
恐らく戦えば私は死ぬだろう。だからここで情報を引き出すしかない。
「お前の名はどうでもいい」
「ならば目的を語ろう。現在我が国は未曾有の怪異の脅威に晒されている。そこで内閣府は鬼の力を利用しようと考えているのだ。どうかご協力願いたい」
簡潔に目的を述べた。まず間違いなく長話が通じる相手には見えない。
「酒を持ってこい」
鬼めが。あくまで人間を下という態度崩さんか。
「分かった。だがしばらく待ってもらうことになるがいいか?」
「うるさくてかなわんな。やはり腹が減った」
そう言葉を吐いた直後、鬼は手刀で私の左腕を切り落とし、喉を突いた。
「っっっ!!?」
唐突の暴虐にパニック状態に陥る寸前。頭に天狗の声が響く。面を遺し伝えろ、と。
この村に入ってからの情報を天狗の面に念じる。これを丹羽君へ渡さねば。
痛みを忘れ、社から飛び出さんともつれる足に力を込める。村の外で彼が待っているのだ。
「どうした?」
後ろから冷たい鬼の声が聞こえる。私一人で対処できる怪異ではない。見てしまったのだ。空を切るかのようにあっさりと私の腕を切り取ってしまうところを。まったく同じタイミングで喉を潰されるところを。
血を撒きながら扉を突き破ると視界の奥に丹羽君がいた。あの馬鹿者我慢出来ずに村へ入ってしまいおったか。老体より自分を心配しろ。
「!!!」
当然声は出ない。血を吐くのみだ。しかしまだ右腕が残っている。
「教授!?」
異変を感じ取ったであろう丹羽君へ全力で面を投げる。左腕はもうないので勢いをつけにくいが、天狗の力で風に乗せればいい。
天狗面には『情報』『すぐ逃げること』の二つを詰めた。これが活路になる。これが希望になる。手から離れる瞬間に、叫ぶ代わりに最後の念を詰める。
『あとは任せた』、と。
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