第26話 記録『■■■■■』

 今やこの島国は新たなる局面に突入している。我が国における怪異発生のペース明らかに常軌を逸しつつあり、数字だけみれば大国に比肩するほどだ。怪異に対抗せんと練られたらさしい新計画も、一歩間違えば大惨事を招くリスクを抱えている。

「人造の怪異などあてにならんだろうに!と言うかちゃんと統計見てこの指示ならついに上もやきが回ったとしか思えんのだが!」

「教授静かに!地図に集中できないっすよ!」

 憤慨する私の隣で地図とにらめっこしているのは助手の丹羽明慶くんである。優秀だが慎重がすぎるきらいのある若人だ。政府の裏である我が研究室に配属された人間の中では最年少。といっても少年などではなく三十路手前の髭面の小僧である。

「そろそろ見つかっても良い頃だろ…!何故こんなろくな舗装もされてない道を歩まにゃならんのか…」

「探索ルート作ったの教授でしょうに…俺もそろそろ疲れて来ましたよ。今日のキャンプ地そこの小川にしません?」

 休みの提案に嬉々として乗っては威厳が無いが体力も既に尽きているので致し方なし。

「そうしよう。地形的にも鉄砲水の恐れはあるまい」

 ここ最近食事も簡易的な物しか摂れてないので健康状態が心配になってきた。万が一のことがあれば丹羽君に食糧を全て託して私が野垂れ死にする手もあるが、普通にまだ死にたくない。

 探索した地域はすで二十を越える。そろそろいい加減伝承に辿りつくはずだ。鬼を見つけるまでは少なくともまだ死ねない。

「煮沸用の薪探して来ますよ」

 力仕事は流石に若者にはもう勝てないので素直にこれは任せるしかない。

「頼んだぞ。私は今回こそ蛇を捕まえる」

 食糧調達も私の務めだ。持参した食糧を無闇矢鱈と食べるわけにはいかないのでこうして現地調達に乗り出している。もう虫と蛙と魚は食べ飽きたぞ。

 出立の際に持ってきた投網がこうも役に立つとは…いや予想はできてたしだからこそ無理を言って持参したのだ。しかし、ここの魚は正直サイズ感が乏しい。狙い目は蛙だ。幸いにも、私はまだ耳が遠くなっていない。鳴き声でなんとなく位置は掴める。

 そして蛇はおろか、目星をつけた場所で蛙を捕まえることも出来ず結局小魚を数匹捕まえただけの私はトボトボとキャンプ地へ戻るのであった。

「教授。悪い知らせと良い知らせどっちがいいですか」

「悪い知らせから教えてくれ」

 人は先に悪いことを聞き、後から良い情報を聞くとそっちの方により魅力を感じとるようになるそうだ。知り合いの営業マンから聞いた。

「先ず薪はほとんど見つかりませんでした。全く見つからずって事ではなかったんですが、今日は火力が見込めないです」

「安心したまえ。私も食糧はこんなつまみ程度しか見つからんかったぞ」

 お互いに敗北を見せつけ合う。疲れている。

「良い知らせってなんだね」

 そっちが重要なのだ。ようやく蛇でも見つかったのだろうか。はたまた猪でも捕まえたか。かつて故郷で食べていたあの獣臭い豚肉の味が恋しい。

「えっとですね。多分俺らが探してたと思われる村見つけました」



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