第25話 人も神も
「例えば今まで自分を支えてくれた人々が、自分の職場や家が。それら全てを失った人間がどうなるのかを想像してみて下さい。まあ多くは放浪するしかなくなるわけです」
なんとなく、今回遭遇した怪異について久保さんに話してみた。今日登庁した理由は初の給料受け取りの為である。
「信仰する民を失い。自分を祀る社も失い。終には居場所たる村落すら失くしてしまったのでしょう」
此度私が焼いた怪異は文字通りに、ホームレスとなった神だったのだ。
「でもマネキンぽいのに混合してたのって結局何だったんでしょうか。もしかして移動するために必要な器的なあれですかね?」
「概ねその解釈が正しいでしょう。信仰の絶えた神がその場から動こうにも限界があります。そこで恐らく投棄さていたであろうマネキンに取り憑く手に出る、と」
私の疑問に久保さんは推理する。
「そして運の悪いことにそのマネキンが曰く或いは怨みでも持っていたのでしょうね。人に近い形状のモノほど怪異化しやすいといった統計もあります」
となると相対したときの禍々しさは合点がいく。あのとき聞こえた大勢の声は信仰の名残、そして合わさってしまった怨みだったのだろう。
「戦ってみてその、語弊があるかもですが…あんま強いかんじでもなかったんです。やっぱ鬼ってそんな強いんですよね!」
性質は歪めども神殺ししちゃったわけだし。
「それも勿論ありますね。ただこの混合型はもとから相当に弱ってたんだと思います。人を求めた神性と人を殺す怨恨。それらが内側で食い合ってたってやつですな」
まぁ鬼も破格に強いんで元気だして下さい、とシュンとする私に久保さんはフォローを挟む。
受け取った給料はバイトよりも多かった。当然だ。一応は歴とした公務員だもん。
「あ!そうだ紗弥について!」
危ない危ない。お金で頭がいっぱいだった。
「紗弥の身体のこと少し聞いたんですけど、もう半分は管理してた久保さんに聞けって言われまして」
昨夜、紗弥の身体が鬼を信仰する村の出身であることを聞いたとこまでを久保さんに話した。
「なるほど、彼女も大分心を開いてるようですな。詳細な話は少し長くなりますがよろしいですか」
それは覚悟を問うようにも聞こえた。
「お願いします」
「…分かりました。まず彼女の名前ですが、稗田さんが会ったあの日、我々も初めて知りました」
そこから聞いた話は紗弥の核心には触れ得ずとも紗弥を知るには十分なほど残酷な事実だった。聞かないほうがよかったのではと思うほどに。
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