第24話 スタレガミ
早朝午前六時。私を起こしていいのはアラーム機能だけと決まっているのに仕事のメールで起こされてしまった。最悪の気分である。
『東京都昭島市○○○○にて怪異発生。混合型。駆除活動をお願いします』
「紗弥仕事…おきて…」
眠い目をこすりながら紗弥をゆする。
「…いってらっしゃい」
一緒に来なさい。顔を見るに紗弥は四度寝くらいしたところか。ダルいのは分かるけども。
「これ…」
目を瞑ったまま紗弥に握手?を求められた。
「んー?どうしたのさ」
「力の分割。これでなんとかなるから…」
そう言って紗弥寝返りをうつ気絶してしまった。
「私一人で行くの?」
とにかく。寝ぼけて受注の返事を送ってしまった以上は行かないとだ。
顔を洗って最低限のメイクを済ませる。
タートルネックにスキニーパンツを履いたら準備完了。あんま着込んでもあれだし。
改めてマップで発生地点を確認する。そこそこに微妙な離れ具合だ。自転車で丁度良いくらい。
朝食までには帰ってくるよ、と置き手紙を残し早々に自宅を出る。これでも一応出勤なのである。
時々自転車を止めマップを確認しながら目指す目標地点は土手である。そろそろ着くかな?ここらへんだと思うけど。
走らせること十数分後。緊張でかなり急いでしまったがここからは歩きだし丁度良いくらいだろう。自転車が巻き添えを食らっても困る。
異界化は肌でなんとなく感じとれるようになった。あとは目標を探して撃退と。混合型ってあったけど今回はどんなだろうか。手伝わされる中で何度も怪異を見てきたが、混合型は最初に戦った悪魔しかまだ見てないのだ。
異界化された区域ないを探索もとい索敵しているとそれらしきものがいた。
さっきまでいなかったはずなのに気がつくそれはいた。開けた視界で見渡しも問題ないはずなのに。土手の中央をひたひたと、風の音も鳥の鳴き声も聞こえるであろう早朝の土手が、異様なまでに無音なのだ。ただそれの足音だけが聞こえる。
「やば」
無意識に後ずさりをしたがこれは遅かった。だってもう目の前まで来てたんだから。長い髪を引きずった身の丈は二メートル以上あるであろう赤いマネキンが。
私は鬼由来の力がある為か呪い殺されることはないらしい。だが怖じけはする。怖いものは怖いし、無敵というわけではないのだ。
「…ぁ」
人間はあまりに大きなショック或いは恐怖に晒されると声が出なくなるというやつだ。加えて腰まで抜けてしまった。
「■■■■■■■■■■■■」
大勢の声を一つのスピーカーで流すような、それでいて重低音を効かせた不快極まる音を叫ぶそれはゆっくり私を見下ろす。
吐き気を催す怪音はむしろ私にとって気付けとなった。
「フン!」
おもいっきり足を蹴っ飛ばそうと右足を振るが空振る。否、当たったが当たってない。となると妖怪の線は怪しい。マネキンだし付喪神かとも思ったが本体に物理が利かない以上はそっちも怪しい。
「■■■■!」
「くっそ!?」
音量が上がってる。抵抗されるとわかった途端に相手も意識が変わったのだろう。頭が痛い。
「仕方ない!」
混合型らしいし恐らく海外のモノのエッセンスも混じってるだろうがちょっと思い当たるものが浮かばない。だが放つ雰囲気には人らしい怨恨が含まれてない。多分こいつは自然由来の神である可能性に賭ける。
「教えてもらったばっかのやつ試すか!」
紗弥曰く、手から火を使うのに私は向いてないそうだ。そこで目を利用した火の使い方を教わった。『地獄の火』はまだ扱うことは出来ないけど、発火は十分に扱える。私の左目が。
火は自然を象徴する要素の一つでありそれを崇め、またそれに殺される神だっている。
右目を隠し、おぞましい造形のマネキンを左目で見つめる。睨むのではない。憐れむように。
「■■■■■■■」
苦悶の叫びを上げた後、神の身体はゆっくりと火に抱かれる。隙間一つとて余さないように。炎は灰にすることなく神を焼き殺した。
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