第23話 出自
すぐに返信してはなんだか変だから一分ほど時間を置いて私は返信する。『見間違いじゃない?絶賛洗い物中だよ!』。そう無難に怪しまれないよう文を送信するとまたすぐに、『そっくりさん!びっくり!』と返信も来た。この様子ならまず疑いは晴れたことだろう。
慌てる心臓落ち着けたところで、私は改めて帰宅を目指し歩き始める。
そして帰宅するなりすぐシャワーを浴び夕飯にありつく。今日は昨日余ったカレーを食べるのだ。予約炊飯したお米は帰宅と同時に炊き上がったようだ。
「そういえばさ」と、何とはなしに紗弥に話を振った。テレビを眺めつつカレーを頬張りながら「んー?」とやる気の無さそうな声が返る。
「紗弥は地獄の鬼なんでしょ?地獄からどうやってきたの?」
出会ってから今日まで目まぐるしいほどに忙しい日々が続いていた。それ故聞いていなかった。いや、聞いていい事なのか分からなかったのだ。
「半分くらいあたり」
「半分?」
「僕は元々人間だったからさ。と言っても人間扱いされてなかったけど」
カレー食べながらの会話にはなりそうにない。しかし、ここで変に気を遣って話を中断してもな…。
「もう少し詳しく聞きたい」
彼女と一心同体の身である私。そんな私が彼女の出自すら知らないなんてことはよくないだろう。意を決し踏み込んでみる。
少し長くなるよ?と言うと彼女は一呼吸置いてから話し始めた。
ずっとずっと昔。ある村でのこと。その村では古くから鬼の信仰が盛んであった。小規模ではあるが農耕も商いも安定しており諸国が飢饉に悩まされる中、その村だけが飢えを免れ、また周辺に食糧を分け与えていた。
村人は皆、鬼の守護を信じ日々を懸命に生きる真面目な人間ばかりであったそうだ。
しかし、奪いあいが起きぬ故争いを好まない村の在り方を利用せんと周辺の村は企んだ。
鬼など信仰してる者どもがまとなはずがあるか。土地が優れているだけに違いない。そしてある晩に惨劇は起こされた。
その肥沃な土地を奪ってやろう。
襲撃は土地だけあきたらず村人の命にまで及び、人口の半数もの人間が事態の把握も出来ないままに殺されたのだ。
生き残った村人達は信仰の本尊たる『鬼の遺物』を抱え山を越える逃避を余儀なくした。
逃げ延びた村人達は故郷を取り返さんと復讐の感情を覚えてもなお、鬼への信仰を欠かさなかった。
その想いを汲んだか、あるとき『鬼』の如き力を持った子供が産まれた。
そして十にも満たぬうちに石を片手に持つと、奪われた皆の故郷を単身で奪還してみせた。
鬼の子と崇められた少年は本尊の守り人として成長し、やがて子も成した。だが鬼の剛力が引き継がれることはなく、本尊の管理者として家系が続いたのだった。
「その末裔『紗弥』がこの身体」
お伽噺が終わり、その続きが目の前にいるのだ。
「この身体、ってことはまだいろいろあるの?」
冒頭に半分くらいあたりと言われたのを思い出す。
「身体の自我はずっと昔になくなってるから空なんだよね。でも『鬼』の適性があるから『地獄の鬼』である僕が入れさせられたわけ。そしてもちろん僕にも名前はあるけど不具合で人格の大部分と一緒に忘れちゃってるんだよ」
「つまりは…」
紗弥は身体の名前である。今話してる中身の鬼の魂が、仕方なく身体の名前を名乗ってる。的な。
「久しぶりに長く話して疲れちゃった」
紗弥は私のベッドに潜りこんでしまった。
「もう半分は彼らに聞いてね」
毛布の中から微睡んだ声が聞こえる。
「あー、うん。とりあえずはおやすみ…」
紗弥は本来夜型である。ここでの睡眠はさしずめブランチ後の昼寝だろうか。
機会があれば局までもう半分の話も聞き行こ。
情報を整理してるうちに眠くなってきたので私もそろそろ寝ようか。
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