第21話 新しい日常
怨霊駆除から一週間。その日からは二日に一回のペースで亜摩音さんに同行して力の使い方、局での手続き方法などを勉強させてもらっている。
聞くと駆妖局はあくまで通称であり、本当の名は誰も知らないらしい。久保さんいわく『あるにはある』らしいがやはり本人も存在はするということしか把握してないとのことだ。業務も完全に分業かされており、それこそ全てを知っているのは『管理人』と呼ばれる全区域の連絡を中継し統括して指示を経由するグループくらいだろうか。
何にせよ、無理やり採用された新人たる私にはどうでもいいことと言える。出世すれば分かるもんなのかな。でも公務員の出世ってかなり長い目で見ないとなんだっけ。
「どうしたね灯火くん」
「掛け持ち採用されたんだよ渚殿」
「なんとな!」
仕事中に私語で怒られるほど厳しい場所ではない。書店とは客が溢れるような場所ではないのだ。
「んでほぼ就職みたいなかんじだから、いよいよ大学目指す理由が失くなってさ」
安定の公務員。現代日本は公務員と名乗ればまず訝しまれることはない。私が大学を目指した理由も肩書き欲しさはあった。あと威張りたかった。
受験に対して強迫観念を持って過ごしてきたのに、ある日突然就職になったのだ。ド派手な一個飛ばしにまだ心も追い付いていない。
「ふーん。なら幾分気はらくになれたね」
ポジティブモンスターめ。
「重要なのは行き着く先だからね人生。無理して奨学金抱えて燃え尽きるより遥かにいいことだよ」
生涯年収なんて使い切れないもの気にしてらんないよ、とため息をつく渚。
「なのかなぁ。私は就職ルートになったけど渚は?」
就職ルート。自分で言っといて重い。
「私は進学かな。中堅の公立大でだらだらが理想だよ」
確かに公立なら学費も大幅に節約出来るし容量の良い渚なら浪人することなくすんなり行けそうな気がする。ましてや理系女子なんだから大学を出たあとの就職先も豊富だろう。
「学は選択を広げ、また世界の解像度を上げる」
渚はおもむろにそんな台詞を気取って喋る。
「誰の名言?」
「私!」
渚と話をしてるときは時間の流れが早く感じる。これも相対性理論ってやつですかアインシュタイン先生。
その後は何事もなく退勤して渚を駅まで見届けるいつも通りのルーティンをこなす。が、最近はここで怪異退治の仕事の連絡を確認するルーティンが追加された。二十一時に定時連絡が届き、周辺での退治依頼の有無を確認。またそれに応じられるかどうかを返信する。
『東京国立市○○○○にて怪異発生。未分類。駆除活動をお願いします』とテンプレートに則ってメッセージが届く。私はいつも、先に発生地点をマップで確認している。そこが近いかは重要だ。タクシー台は経費になるそうだがめんどくさい。
「ここらへんかな?」
指定された地点を確認して、心臓が鳴った。知ってる場所だ。
「渚の隣の家?」
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