第16話 起床

 目が覚めると同時、見知らぬ天井が視界を埋める。よくある展開だと言えるかもしれない。往々にしてこういうときはあれだ、私は気絶して病院送りになってしまったってやつ。でもここは病院のベッドの上ではないようだ。体をよじると直後に体は落下した。

「んだは!」

 ソファの上?絨毯が無ければもっと痛い思いをしていだろう。絨毯とな?ここどこだ?

 周りを見渡す。

「リビング…」

 モダン風の壁紙に囲まれ、吊るされた証明が部屋を照らす。リモコンが置かれたガラスのテーブル。ソファの向かいには大きなテレビが備え付けらている。リビングということは分かったがここの主が誰なのか分からない。数分、頭を整理していると部屋の主が現れた。

「おはよう。ちゃんと起きてくれて安心したよ」

「三神さん!?」

「そろそろ下の名前で呼んで欲しいなぁ。私と君の仲じゃないか?」

 昨日会ったばっかなのに。大人のコミュニケーション能力はすごいや。

「あー…下なんでしたっけ?」

「亜摩音だよ!。そう言えば一回しか名前言ってなかったか」

「えっと亜摩音さん。ここは?」

「私のマンションだよ。でもほとんど使ってないから私のうちかと言えば怪しいけどね」

 それはそうと、と亜摩音さんは話を切り替えた。

「もう来月には初任給出ると思うんだよね。灯火ちゃんだと多分まだ三十万いくかどうかだけど」

「初任給!!」

 おっと食いついてしまった。流石は公務員。それも命賭けの現場職員だけあって給与ウハウハじゃん。

「あと昨日の悪魔だけどさ。あれは複合型ってやつなんだよね」

「複合って…オリジナルではないってことですか?」

「そ。グローバル化が本格化、人以外に連中も文化交流してる事実が発覚したのが半世紀前のこと」

「てことは、私が戦ったのって結構ヤバかった相手だったんですか?」

 悪魔は姿を思い出す。羽の生えた顔無しの巨体を。

「んーー普通かな。でも初戦であれくらいのを攻略できたなら今後も大丈夫だよ」

 あれで普通か…。本当に死にかけたのに…。

「えぇ…あ、えっとこの仕事って頻繁にああいうのと戦うかんじですか?毎日はちょっと疲れるっていか」

 事件は解決したのだ。あのあとすぐに駆けつけた亜摩音さんは、気絶した私を抱えたまま異界化した空間から離脱したらしい。

「そうさねぇ。私は引っ張りだこで週五で回ってくるけど、新人の灯火ちゃんは週二くらいからだと思うよ」

 本当にヤバい怪異も半年に一回くらいしか戦わないし大丈夫、と亜摩音さんは付け加えた。あの悪魔が普通だとしたら『本当にヤバい怪異』はどんなやつなんだろう。

「週二ですか。週…!?今日学校!」

 すぐにスマホで時刻を確認する。既に九時を過ぎていた。青ざめる感覚で完全に眠気は吹き飛んだ。

「灯火ちゃんの高校には連絡がいってるはずだよ?公欠ってやつだね」

 その言葉を聞いてか高鳴っていた心臓は落ち着き、深々と安心のため息をついた。出欠ギリギリの教科もあるし助かる。

「仕事については勿論学校には伏せてある。灯火ちゃんも友達とか親御さんに漏らさないようにね」

 自慢したい。切実に。私もう就職しちゃったもんね!って。

「そこら辺は当然隠します!」

 あと。

「あと私。両親いないんで大丈夫ですよ」

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