第15話 鬼の膂力

 未だに痛がる悪魔の頭目掛けて私は右拳を振りかぶる。フォームとか全然分からないから衝動のままに。無意識のままに。力任せでいい。

 全身の筋肉の躍動を感じる。時間もなんだかゆっくり進んでる気がしないでもない。

 拳は悪魔の頭骨を陥没させた。巨体は後方に五メートル程ふっ飛んだ。でもまだ死んでない。

「代わる。見てて。力の使い方」

 一瞬の脱力感を経験すると目の前に紗弥がいた。私から抜けたようだ。

 紗弥は沈む悪魔の頭へ私と同じように振りかぶってから拳を打ち込んだ。巨体は数十メートルは、いや百メートルくらい彼方にぶっ飛んだ。真っ直ぐ飛ばされる悪魔へ向けて紗弥は左手を向けた。何をするのかと思いきや手から火を放って見せたのだ。周囲の気温は急上昇する。離れた位置の私すらも熱に包まれているのにその火は一直線に悪魔へ向かいその身を焼き上げていく。レーザービームほどに絞られた火柱を紗弥は操っている。これが鬼か。ここまでできるのか。

 灰と化した悪魔を確認した紗弥は口を開いた。

「今のが大叫喚の片鱗。まだ馴染みきってないからフルパワーは無理だけど。そのうち門ごと呼び出せるようになる。さ!帰ろ!」

 見せつけられた力。それを私が使えるかは不明だけど、力を振るう紗弥を美しいと思ってしまったのを、私は忘れない。

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