第14話 ミス

 このままだと轢かれる。真っ直ぐ走って逃げきれる相手ではないかのは明白だ。頭をフル回転させて解決を探る。環境と相手と私のスペックを考慮して。私は横に飛び込む。居酒屋の前に積まれたゴミ袋目掛けてだ。受け身を失敗して怪我はしたくない。

 悪魔は顔が無い、つまりは視界の確保は出来ないと断定。猛スピードから突然の方向転換は無理なはずと咄嗟に思いつき回避出来た。危うくミンチになるところだった。ゴミ袋と一緒に転がって済むなら全然マシだ。ん?なんでゴミ袋と仲良くゴロゴロ転がっているんだ私は。そこはもっとボフッと私を受け止めてくれるものではないか。

 そう頭が冷静になった瞬間、右足に鈍痛が走る。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。見たくない。それでも患部を確認しないといけない。失くなってたら嫌だ。声を殺し痛みの元凶を目視する。そこには稼働域を越え、左向きに折れたローファーを履く私の足がある。見るな、見るな、見るな。ギリギリで私の右足は間に合わなかったのだ。

 ここで泣いていてもいずれ悪魔気付いて再び攻撃を仕掛けてくるだろう。移動しないと。そして考えろこの状況を。

 紗弥が来ない理由。私は見捨てられた?それとも出たくない理由があるのか?もっと別の要因が?

 悪魔の特徴。視界は掴めてないはずだ。だがこっちに気付いてから走り始めた。視覚以外の感覚器官があると思われる。あの巨大角か?

 展開は最悪だ。生身の人が勝てる相手ではない。何か少しでもヒントがあれば。観察しろ。

 悪魔はブレーキを踏んで五十メートルを通り過ぎていった。頭部を伸ばしその場でぐるぐると回転して、いやあれは違う。探ってるんだ角を高くして振り回してる。およそ弱点があるとすれば間違いなくあの角しかない。

 次にその弱点を攻撃する手段。近寄って叩くは不可能。飛び道具なんて当然持ってない。誘きだして攻撃。どうやって。いや、多分あれもしかして音に反応してるかんじ?だとすれば。

 音を立てないように、痛みに泣くのを我慢して私ゆっくり立ち上がり無人の居酒屋に忍び込む。幸いにも狭い店内故に手をついて歩ける。途中でビール瓶を二つほど拝借していこう。無論武器である。ゆっくり歩みを進める私はついに屋上にたどり着いた。

 手すりを伝いながら悪魔を確認する。徐々にだがこの建物に向かって来ている。

「…よし」

 屋上から地面に向けて投げられたビール瓶は派手に散り甲高い音を轟かせてくれた。悪魔が音の元をたどり小走りに迫ってくる。落ちたビール瓶に頭を寄せる悪魔は上から覗くと土下座にも見える。

 私土下座した悪魔の角目掛けビール瓶をポイと丁寧に投げた。今度は中身も入ってるし重いので丁寧に投げざるをえないのだ。

 自由落下するビール瓶は屈んだ悪魔の角に直撃してくれた。すると角の方が欠け、その破片が散らばってゆく。ビール瓶恐るべし。

「ooooooooonnnnn」

 よほど痛かったのか呻き声を上げジタバタし始めた。右足の仇だ。もっと呻け。

 そのとき頭に声が響いた。

「灯火」

 待ち望んでいた声だ。

「紗弥大丈夫!何があったの!」

 やっと聞けたその声に、こんなにも安心感を得ている自分が意外だった。

「あの角は遮断の性質があったんだね。三神って女も干渉出来なくなってたよ」

 マジ?助けに来れない状態だったってことは本当に死ぬ可能性あったやつじゃん。

「とりあえずどうするべき!?」

 慌てた私と違い、紗弥の声は女神のように優しく、仏の如く救いを感じさせた。

「うん。今取り憑いた。動ける?」

「とり!?あっ…!」

 初めに体が軽く感じた。次に骨折したはずの足首がで立っていることに気付く。そして握っていた金属の手すりがひしゃげているのを見た。

 これが鬼の力?なんかすごく体を動かしたい。そんな衝動に任せ、屋上から飛び降りた。受け身をとることなく、両の足はガッチリと地面を捉え、私は悪魔の正面に立つ。

「やるよ。紗弥」







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る