第6話 殺せ

 友達を殺せと言われて、或いは知り合いを殺せと言われて、それにただはいと答えられる人間が果たしているのか。考えるまでもないじゃないか。そもそれが友達でなかろうと人を殺せと言われて了承出来る人間がいるわけがないだろう。少なくとも今までの人生を照らしても、他人を殺めることが異常であることは分かる。

「無理ですよそんなの!」

 一呼吸置いた後拒絶の一言を放った私に、久保さんはそれもそうかと言わんばかりに軽いため息をついた。

「そうですか。…貴女は良識をお持ちのようですな」

 続く言葉は落ち着いていた。

「ここに、いやこの世界に足を突っ込んでしまった以上は人を殺す場面はよく遭遇するんです。そして生きている限りは必ずそのときが来ます。土壇場で覚悟してる暇は無いのでここで忠告させていただきました」

 三神さんは私に死ぬか一緒に来るかを迫った。私がパニックにでもなって答えずにいたならば、彼女は私に手を下していただろう。私と言う他人を殺さねばならなかったのだ。

「どうしても…どうしても巻き込んだ人は殺さないとダメでしょうか」

「ええ。基本殺さないとダメです。万一にでも逃して当人がSNSにでも拡散したときどうなるのか。これについては追って説明しましょう」

 さて、と手元のアンケート用紙に目を落とすと久保さんからの質問は続いた。

「ここからは健康面についてですが別室での簡易的な健康診断になるので移動しましょう!」

 健康面か。ちょっと体重が心配だけど病気とかにもなってないし大丈夫だと思うが。些か心配。

 最後に身長体重計ったのいつだっけ?

「えっと検査の項目って何があるんですか?」

「 身長体重計って血液検査があります。やること自体は少ないんですよね。病院ほどの設備も無いので仕方ないですが」

 あんまり時間もかからなそうで安心した。直後にびっくりするような一言が飛んできた。

「あとオバケに取り憑かれてもらいますよ!」

 待て待てい!


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