第54話 クロウ

 サーヤの影から現れた第三の力。


 クロウ。


 右手を握ったり開いたりして、指をコキッと鳴らした。


 次の瞬間――。



「!?」

 バキッ!

「なにっ」

 馬の魔族の角が、二本とも折れていた。魔族の目に、全く見えない速度だった。


「もろいんだな。魔族の角って」

 右手にある二つの角の先端。ガキガキとこすって音を出すと、ぐしゃりと握り潰す。


「貴様、何者だ」

 地面をひづめでかく。一かきで地面はえぐれてしまった。

「俺ぁ、影だ」


 馬の魔族はその言葉を聞くと、突如、目の前がぐるりと回転し、地面に頭を打ち付けた。

 動けない。視界は横向きになっている。

「な……な……」

 かろうじて声を発するが、言葉にならない。意識が遠のく。

「角がもろいんだ。骨ももろくて当然か」

 クロウの手に黒い剣が現れる。それをためらいもなく馬の魔族のこめかみに突き刺した。


 魔族は胴体から首を切り離されていたのだ。白目をむきこと切れたその体は、先程の鳥の魔族同様、ちりとなる。


「ちっ。物足りねぇな」


 黒いホコリのようになった魔族を見下し、クロウが吐き捨てるように言った。

「クロウ! 早く戻れ!!」

 コルが飛んで来る。子供の狼もびくつきながら出て来た。

「おぉ、チビ。久しいな」

「早く戻れって! サーヤの体力がもたねぇだろ」

「戻っていいのか?」

「は?」

 クロウは町の方を見た。

「お前らの声は聞こえてた。町にも魔族がいんだろ? 強そうなヤツの気配がする」

「賢者と仲間が戦ってる。ちゃんと倒すから」

「せっかく出たんだ。もう少し、力を貸してやるよ。何より、サーヤの願いだ」

「え?」

 タンッ。クロウが地面を蹴ると、もう姿が見えなくなった。

「あぁもうっ! 相変わらず一歩がでけぇな! おいチビ助、オレ様達も行くぞ!!」

「きゃんっ」



 小さな一羽と一匹が後を追って行く。



 避難していた町の住人達はこの様子をしっかり見ていたので、この森から絶対出ないでおこうと顔を見合わせ頷き合っていた。

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