第46話 サーヤとエイナ

「光の巫女……。これが!?」


 保安官達は、自分の目を疑うほどだった。



「エイナがここにいる以上、今一番危険なのはこの町です。万一の事を考えて、町の人達全員を避難させてください!」

 サーヤが頼んだ。

「……その話、信じる証拠は?」

「……」

「その娘が光の巫女本人だという証拠は?」

 ぎり、サーヤは唇を噛む。


(確かに、町の人間じゃない私がいきなり避難指示をするなんて、おかしい奴だと思われる……。しかも、光の巫女が闇堕ちしたなんて、笑われても仕方ない。でも、このままじゃ――)


「なら、彼女を掴んでるこの手を放しましょうか? ここにも祈りの石があるんでしょう? 魔族が出てきたら信じてくれますか?」

「う……」

 さすがに隊長も、その賭けには乗る事が出来ず、考えあぐねている。サーヤはエイナの方を向いた。

「エイナ。今すぐここから消えな。何もせずいなくなるなら見逃してあげる」

 微妙な力の調整をして、エイナに声を出せるようにした。


(まずい……、こんなに力を使った事がないから、疲れて来たかも……)


 サーヤは内心、焦りだしていた。


「……消えるのはお前達よ」

「不本意だけど、私はあんたの妹だよ。あんたと同じ顔してるでしょうが。唯一の肉親まで消そうっての?」

 少しだけ、家族感を出してみた。サーヤはエイナを家族だと認めていないが、自分が持っている武器は全て使わなくてはと思ったのだ。アルゴスも、止められるなら止めて欲しいと言っていた。自分が動くのは、アルゴスの言葉があったからだ。もしなければ、マットウェルには申し訳ないが、戦い、討つ方法を真っ先に取っていたと思う。


(私は攻撃的な性格じゃないけど、エイナを見て、こいつは本当にヤバいと思ったもの……。“クロウ”を使ってでも、早くに対処しないと……)


「妹?」

 エイナが呟いた。保安官達は、二人のやりとりを見ている事しか出来ない。

「私に妹はいない。お前のような化け物と一緒にするな」

「化け物……。あんたは、私達がどう見えてるの? あんたも私達と同じ、人間でしょうが!」

「一緒にするなぁ!!」

 ぐらっ。

「!?」

「サーヤ!」

 サーヤの体が横に揺れた。コルもそれを見逃さず、思わず声を上げる。エイナの腕力が、サーヤの体を横へ引っ張ったのだ。疲れが出たせいで、影の力が弱まってしまった。その一瞬の隙をついて、エイナは女性のものとは思えないほどの力で、サーヤの拘束を解こうとした。


 エイナの影から、サーヤの右足が離れる。


「しま――っ!」



 自由になったエイナの左半身。サーヤの右腕を振りはらい、サーヤの眼前に左手をつきだした。



 にやりと笑ったエイナの顔。


 サーヤは、ぞくりと背中に冷たいものが走る。



「サーヤっ!」

 コルが叫ぶ。


 どぉんっっ!!




 辺りの地面が揺れる。そして、町の北側の外壁が吹き飛んだ。

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