第44話 合流

 ディルンムットとマットウェルが、魔族と戦っている時。



「はぁ、はぁっ!」


 サーヤは土の地肌が見える平原を走っていた。

「おーい、サーヤぁ!」

「コル!?」

 小さい羽を一生懸命動かしながら、コルがサーヤの後を追いかけて来た。肩に着地。

「オレ様も一緒に行く! めっちゃ怖い……」

 ガタガタ震えるコルを優しくなでる。

「大丈夫。大丈夫よ」

 ふぅ、と顔を上げる。だいぶエクレーの気配が近い。そう思っていると、二人の姿が見えた。

「サーヤ! コルも」

「エクレー、リリーシャさん!」

 二人の所まで一気に駆け寄り、両手を膝について息を整えた。

「何かあったのですね」

「うん……」

 サーヤの様子に、エクレーは眉を寄せた。サーヤは首を縦に振りながら、なんとか気持ちを落ち着ける。

「侵入者は片付いた。卵も平気。でもその後……光の巫女が現れた……」

「光の巫女……。セレティアの!?」

「そう。あいつ……、自分の力をめた祈りの石ってヤツから魔族を呼び出した」

「!?」

 驚いたのはリリーシャだ。

「今、ディルンムット様とマットが相手をしてる。私達は、柱の所に避難しろって」

「リリーシャ様を守るには、柱の元が一番安全ですね。すぐに向かいましょう」

「ま、待って下さい!」

 声を上げたのはリリーシャだ。

「い、祈りの石から……魔族が……。本当ですか?」

「はい。この目で見ました」

 彼女の顔色が悪い。肩が若干震えている。

「怖いのは当然です。今は、ディルンムット様の言う通りにすべきかと」

 エクレーが柱へとうながそうとするが、リリーシャは首を横に振った。

「違うんです。た、確かに怖いですが、町が危ないんじゃ……」

「町が?」

 サーヤとエクレーは、顔を見合わせた。


「祈りの石は、私達の町の周りにも埋められています。それが全部魔族に変わったら――!」


「!?」

 一気に鳥肌が立つ。コルが「ひぃっ」と悲鳴を上げた。

「いくつあるんですか?」

「詳しくは分かりません。でも、町を囲むように埋めていたので、複数あるかと」

「エクレー、リリーシャさんを柱の所へ。私が町に行く」

「サーヤ!?」

 エクレーは焦った。彼女は本来、サーヤを守るのが役目だからだ。

「ダメです。あなたを危険な所へ行かせられるわけがない!」

「でも、あいつを止めないと!」


 エイナの姿を思い出す。全身真っ黒。光の巫女と言っていたが、その要素が一つもなかった。目も死んだように暗く、マットウェルが話しかけても会話が嚙み合っていなかった。


(“化け物”って言ってたよな……)

 胸の奥がざわりと騒ぐ。ぐっと拳を握った。

「あれが……、あいつが私の姉だなんて冗談じゃない! 町にもし現れたら、私の影で動きを止めてやる。マット達が来るまで耐えられる」

「しかし――」

 エクレーはまだ納得しない。

「大丈夫。コルが一緒だし」

「えええぇぇ!! オレ様もぉ!? 避難したいデス……」

「コル、あんたは強い。やれば出来る子だから。ね?」

「うぅ……」

 そう言われてしまうと逆らえないコル。主であるサーヤにお願いされると断れない。エクレーは眉間に深いしわを刻んでいたが、頷いた。

「仕方ありません。どうか、くれぐれも注意してくださいよ」

「うん」

「危険だと思ったら、迷わず逃げてください」

「うん」

「一人で戦わないでください。どうか、クロウだけは――」

 エクレーは、自分達と同じくして生まれた三つ目の影の名を口にした。

「分かってる。それは、最終手段だから」

「……お気をつけて。コル、絶対にサーヤを守るのよ。もし何かあったら、焼き鳥にするからね」

「は、はいいぃ!!」

 エクレーの迫力に、コルは涙目だ。

「行って来る!」

 サーヤは町の方へと走って行った。それをエクレーとリリーシャが見送る。

「何事もなければ良いですが。リリーシャ様、行きましょう」

「はい……」

(ディル……)

 恋人が心配だが、自分が傷ついてしまえば、もっと彼を苦しめてしまう。それを理解しているからこそ、リリーシャはエクレーに着いて、金の柱がある森へと向かった。

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