第34話 BBQ

「はいマット君。お肉が焼けましたよ」

「ありがとうございます。いただきます!」

「肉ばっかりじゃなくて、野菜も食えよ」

「コル、母親みたいな事言ってる」

「誰がコル母さんだっ!」

「コル、マットをつつかないの」

 リリーシャ、マット、コル、エクレーの賑やかな声がディルンムットの家の庭に響いていた。



「いやぁ、大人数で食事が出来るなんてね。とても楽しいよ。肉を提供してもらって、悪いね」

 鉄のコンロに炭を入れ、網の上に肉や野菜を置いて焼く。バーベキューだ。金属加工が得意なディルンムットがいるので、大き目のバーベキューコンロを作ってもらい、そこで調理をしている。

 エクレーは焼く係だ。リリーシャも手伝っている。ぱちっとはぜる炭から出た火の粉から、コルは必死に逃げていた。

 サーヤとディルンムットは、少し離れた所に椅子を置き、彼らを見ながら話をしていた。

「気にしないで下さい。こちらのお野菜、今まで食べた中で一番美味しいです!」

「アルゴスは庭いじりの天才だろ? それにはおとるよ」

「そんな事ないです。師匠が作った野菜はいつも食べていたので、それが基準になってるんですよね。それを超えるくらい美味しいです。大切に育てられてるのが分かります」

 ディルンムットは嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとう」

「……あの」

「ん?」

「時間が出来たらで良いので……、マットの体の封印を解いてあげてはもらえませんか?」


 ディルンムットは、マットを見た。美味しそうに肉を頬張っている。


「封印は、いくつかに分かれているんだったね」

「はい。五つに分かれていて、精神と両腕の半分は、師匠が解きました」

「そうだった」

 彼はマットをじっと見つめ、体にほどこされた呪いを分析していた。

「アルゴス、頑張ってくれたんだね」

「はい。おかげでマットは戦う事が出来て、私達はここまで来られました」

「そうか……」

「封印を解いた直後、魔族が襲ってきたんです。奴らはマットの中の魔力を察知する事が出来るみたいで」

「じゃあ、ここにいることも魔族にバレてる?」

「分かりません。バレていても、師匠がここまで飛ばしてくれたから、追って来ているとしても距離があるのかも。時間稼ぎになってるかもしれないです」

「土と金の柱を強化したからな。その力の中にいるから、隠れられている可能性もある。いつ不測の事態が起こってもおかしくない状況だ。食事が済んだら、早速解呪しよう」

 サーヤが笑顔になった。

「ありがとうございます!」

「君は、マットが大切なんだね」

 その言葉に、サーヤの顔が熱を持った。

「た、大切な仲間ですから。マットは、師匠が命がけで守った人です。彼にしか出来ない役目があるなら、それを果たしてもらいたい。私も力になれればいいなと、思ってます」

「彼は、幸せ者だね」


「サーヤさん、ディル、お肉が焼けたよー」

 リリーシャが二人を呼んだ。

「じゃあ行こうか。君もたくさん食べなさい」

「はい!」



 星がきらめく空の下で、サーヤ達は穏やかな時を過ごした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る